高×土novel


□ろじあい!
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「ミギャァァァ!」
「フウゥゥーッ!」
「ギャーー!」
「ンニャァァーーー!」

…路地裏から猫たちのけたたましい
声がする。猫の縄張り争いだろうか?
「…猫の世界も楽じゃねぇんだな」
土方は独りごちて煙草の火をくゆらせながら
(※煙草はハタチになってからです!土方さん!)
何気なく声のする路地裏に足を延ばした。
すると
「ンギャァァァ!」ドドドドド……!
声とともに猫が数匹けたたましく土煙を上げて走り去っていく。
だがその場に…一匹の猫がぽつり、残されていた。

『 ろじあい! 』

煙草を急いで携帯灰皿に押し込んで
猫を見てみる。
と、どうやら負傷したらしく
左目からぼたぼたと血が流れている。
消毒くれぇしねぇと…。と思い猫に近づく。
だが、近づこうとしたところ
「フゥゥゥ!」と威嚇して毛を逆立てる。
そこで立ったままなのがいけないかと思い、
腰を屈めて音を立てないように、
そぉっと歩み寄った。
「オメェ、怪我してるじゃねぇか。
そのままじゃマズイだろが。
手当してやるからこっちこい」
言って普段絶対お目にかかれないだろう
レアものな笑顔を浮かべて寄って行った。

それでも猫は相変わらず
「フゥッ!」と唸っている。が、
その声がだんだん小さくなる。
後ずさりしつつも後ろは壁だ。
もう飛び上がるしか逃げ場はない。
あと少し…。手を伸ばす。
「フゥ!」とひと鳴きしたあと
おとなしく腕の中へ入った。

よく見てみると、左目のほか、あちこち
傷だらけだ。
「オメェ、凄ぇな…。男の戦いってヤツだな」
土方はよしよし、と頭を撫でた。
灰色の毛に金色がかった緑の上がり目。
目つきはなんだか頗る悪くて性格がキツそうだ。
だが毛並みの良さからこの猫は元飼い猫じゃないか、と思われた。
「迷い猫の類かなぁ?」…とにかく獣医に行かなくては。
たしか山崎のとこ獣医だったな、と思いめぐらして
足を向けた。

   + + +

「ミギャ、ンニャァニャオニャニャニャ!(テメェら全員ぶっ殺す!)」言って単身乗り込んだ敵のアジト。
灰色猫、晋助は野良猫歴三ヶ月にして歌舞伎町界隈のボスとして君臨していた。

元は飼い猫で血統書付きという何不自由ない暮らしをしていたのだが、飼い主の溺愛ぶりに厭気がさし(飼い主を奴隷くらいに思っていた)家出をしたのだった。
家出したところ、元々才能?があったのだろうが、至るところで喧嘩を吹っかけられているうちにどんどん喧嘩スキルがアップし、みるみるうちにこの界隈を牛耳るボスにまでのし上がったのだった。

それが、今回の敵(最近他所(よそ)からやってきた外来種の猫でカムイという)との壮絶な戦いで左目を負傷してしまったのだ。
それでもまだ戦うつもりだったのだが、人間の侵入で敵は素早く逃げ去り、俺様だけ残されてしまった。

その人間はどうやら負傷した俺を見て気の毒に思ったのか
手を出してきた。
「フゥゥゥ!(俺は誰の助けもいらねぇよ!)」と威嚇してみたが、通じない。
「手当てするから」と近づいてくる。
その人間はすごいぎこちない笑顔を向けて
「こわくないよ」光線を発している。
「フゥゥゥ!(俺はオメェになんぞついてかねぇよ!)」とさらに抵抗する。
それでもヤツはあきらめずに近づく。
あと少しで後ろの壁に突き当たってしまう。

…おかしい。普通人間てヤツは弱っちぃ生きモンだから俺様が威嚇するとすぐに逃げちまうのに…。
ふとそう思った瞬間、ふわり、体が浮いた。
ヤツの腕の中に取り込まれてしまったのだ。

腕の中に入った俺様を見るとヤツは目を丸くして
「凄ェ」と言って頭を撫でやがった。
その目が俺様と同じ毛の色で、しかもビー玉みたいに蒼く透き通ってきれいで。
不覚にもついジッと見てしまった。
その目に釘付けになっているうちに抵抗することを忘れてしまった俺様だった。

   + + +

「土方さん、どうしたんですか?」
「山崎、ワリィ。そこの路地裏でコイツが怪我してて」と猫を見せる。山崎は、猫を一目見て驚いたように目を丸くした。
「うわぁ!これは…。…左目の傷、そうとう深そうですね。ちょっと待っててくださいね!」言って奥へと入っていった。

程なくして山崎が戻って来る。
「今、ちょうど患者さん帰ったからどうぞ、と父からの伝言です」
「助かる。ありがとな」土方はお礼を言ってふわり、笑んだ。
その笑顔に山崎はぽっと頬を染めて
「い、いいえ…」と俯く。
「さ、さぁこちらへ…」と、診察室のドアを開けた。

「これはヒドいな………」
獣医である山崎の父は、晋助を見るなり難しい顔をした。
検査の結果、「…網膜にかなり深い傷がついており、もう左目は視力が戻らないかもしれません」と真新しい白い包帯を左目に巻きつつ残念ですが、と山崎の父は言った。

それを聞いて土方は思わず、ぎゅう、と晋助を抱きしめた。
この、小さな生き物は、多分複数の敵にたった一匹で向っていったのだ。恐らく、大切なものを守るために…。
そう思うと、まるで自分のことのように思えて…。
「…おめぇ、がんばって戦ったんだよな!偉かったな!」
そう言うなり、ぽろり、一粒の涙がビー玉のような透き通った瞳からぽろり、零れたのだった。

それを見た晋助はドキリ、と心臓が高鳴るのを感じた。
見えなくなる、というのは覚悟していた。
左目を傷つけた瞬間、左目は死んだ、と思ったのだ。
それよりも、アイツがこの左目のために
ビー玉のようなきれいな瞳から透明な滴がぽとり、落ちたのに
衝撃を受けたのだった。
それは、今まで見たどんな宝石よりも綺麗な気がした。元の飼い主の指に嵌められた数々の指輪なんかよりも光って見えた。

元飼い主が泣くのは何度も見た(泣かしてやったことも一再ではない)。あれは、煩いのと、うぜぇのとでちっとも綺麗なんて思わなかった。
かえって醜悪だ、くらいに思っていたので、泣き始めると
ふいっとその場を去った俺様だった。

なのに。
アイツから落された、涙は…。
とても静かで、美しくて。
こんな綺麗なものがこの世にあるのか、って思っちまった。

その滴はぽとり、落ちてアイツの手に落ちると消えてしまった。

稀有な光を湛えながら滴が次々にぽとり、ぽとりと落ちてゆく様をひたすら残った片目で追っていたら、
やさしい手の平が俺の頭を撫でた。
見上げると、ヤツだった。
「おめぇ、俺のトコくるか?」
潤んだ目で優しく言ってきたので。
「ニャァ!(行く!)」とひと鳴きした。
ヤツは満足げ頷くと
「あ。まだ名乗ってなかったな。
土方十四郎だ」と言って潤んだ瞳を細めてにこり、笑んだ。
俺は「にゃうにゃにゃー(十四郎)」と呼んでやった。
ヤツはよしよし、と頭を撫でる。
するとその様子を見ていた山崎が
「すごいですねぇ!
この猫、まるで
人間の言葉をわかってるみたいですね!」と言った。
「そうだな」と山崎の父も言う。
それでまた
「んなお!(当たり前だ)」
とひと鳴きしてフンと二人を見下したら
「ほんと、わかってますね!ちょっと性格悪そうだけど」(余計なお世話だッ! ←晋助)
と言って、苦笑した山崎だった。
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