shelved novels

□+1年の海の話
1ページ/14ページ

「あっ、あれじゃないか?」
「きっと、そう……」

 指定した駅前には、2人の姿がちゃんとあった。車を止めて、再び動き出すのは一瞬で。

「ふ〜、お願いしま〜す」
「ミーナ、わざわざ迎えに来てもらってありがとう。逆方向なのに」
「今日は、菜月の部屋を出てるから……」
「あっ、議長サンの部屋にお泊りしてたの〜?」

 今日は、ベティさん主催のバーベキュー大会が行われる。厳密には家族とお店の人で毎年やっているらしいそれに、私たちが参加させてもらうことになっている。私は会場まで菜月とロイ、それからアニを拾って向かうのが最初の仕事。ちなみに、昨日は菜月と一緒に買い物をして、その流れで部屋に泊まらせてもらった。

「大石クンは〜?」
「大石君は、準備があるから先に行ってるって……」
「まあ、道具とかも全部家にあるだろうしね〜」

 助手席に菜月、そして後部座席にはロイとアニ。私の車としては、不思議な組み合わせだと思う。私と菜月、それからロイとアニという組み合わせで考えればごく自然だと思うけれど。大石君がいてくれればそれとなく馴染ませてくれるのかもしれない。それは現地についてみてから。

「あ、あの……」
「菜月、大丈夫…? 酔った…?」
「あっそ〜じゃん議長サン乗り物酔い! 大丈夫〜? 西海だったらまだ結構距離あるよ〜」
「そうじゃないんだ、まだ大丈夫。あの、ちょっと小耳に挟んだんですけど……」
「ん?」

 バックミラー越しに、キョトンとした顔をしているのはロイ。きっと、昨日の夜に話していたことを本人に聞いてみたかったのかもしれない。助手席に座る人がトークリーダーを務めるという向島ルールはこの車内でも適用される。何故なら、乗り物酔いに対する一番の薬がお喋りだから。

「今日は、その、朝霞の彼女さん? 来るんですか」
「いや、今日は来ない。部活の合宿に行ってる」
「見たかったなあ」
「合宿よりみんなでバーベキューが良かったとか言ってぎゃあぎゃあ泣き言送ってくるから黙ってさっさと荷造りしろ、ちゃんとしたモン書くまで連絡してくんなっつって現在に至ってる。それでもたまにポコポコ来るけど普通に無視してだな」
「ロイ、さすが……」
「うっわ〜、安定の鬼だよ朝霞クン。もうちょっとあずさチャンに優しくしてあげてもい〜のに〜」
「何か、ラブラブいちゃいちゃって感じじゃないんだな」
「そんなことをする必要がどこに。台本執筆の妨げになるだろ」
「ロイ、さすが……」
「安定の鬼だね〜」
「孫悟空と三蔵さんじゃないか」

 部活に関わるとロイはこうなってしまうのだけど、部活に絡まない場ではもう少し甘い雰囲気で……あってほしいと思ってる。そう願ってるのは私だけじゃなくて、多分アニもだし、大石君も。だけど、部活に絡むロイを好きになったあずさもあずさだから、という大石君の意見にも私たちは賛同していて……。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ