shelved novels

□+1年の海の話
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「……悪意がないとは、わかっている……だけど、私は……カズとの接し方が、今でもよくわからない……」
「あ〜、福井サンて伊東クンNGなんだ。でも、今の話を聞くとちょっとわかるかも〜」
「……私が心を開ききれないから、気まずい思いをさせているのもわかっている……徹やリンが言うように、悪い人でないこともわかっている……だけど」
「別に、距離を置いてたって困ってないんだからいいんジャない? そんなモンでしょ」
「圭斗と石川みたく互いに嫌い合ってない分、今後の展開に期待が持てるし」
「俺と議長サンみたく嫌い合ってた時期があっても、きっかけ次第じゃわかんないしね〜」

 アニが菜月を地雷だと言ったその理由は、「朝霞クンみたいな子は本家だけで十分」とのことだそう。仕事を1人で抱えて無茶したり、周りを頼ることが出来ないなどといった性格や性質が、2年生当時の彼には本当によく似ている風に見えたのだそう。ロイに対するフラストレーションが菜月に対する嫌悪感に変わっていたとは、その後のアニが分析した結果。
 異性のタイプの話だったはずが、いつの間にか人間関係についての相談室のようになってしまっていた。カズとはミキサーという接点があるし、彼は徹とも仲がいいから私と話す機会もいくらかあった。だけど、その度私は彼の明るさや相手の懐に入り込む様に怯み、構え、碌に返事も出来なくて。
 だけど、アニの言うことが確かにそうなのだ。距離を置いていても特に困っていない。これが他のケースであれば私が思うほど相手は気にしていないと続けられるところだけど、アニによればカズも私に対して気を悪くすることをしたのではないかと気にしているそうだ。それも、少し申し訳なく思う。

「そうだね〜、もし機会が必要ならセッティングするし〜、いつでも声かけて〜」
「……仮に、そういう機会があったとしても、お酒の席はNGで……」
「うんうん、お酒NG」
「お酒に酔った彼が、他の何より見ていられないということを、思い出した……」
「ですよね〜、了解〜」

 よくよく考えると、2年生当時の菜月とアニを知っている人からすれば、2人で私の相談に乗っている姿というのは想像もつかないと思う。人間関係というのはどんなきっかけで動くかわからないし、表面的に見えている姿だけがその人の顔ではない。それは、菜月にしても、アニにしても言えること。

「朝霞ク〜ン、お肉まだある〜?」
「ほら、ちょうど焼けたから食え」
「美奈、うちらも食べよっか」
「そうする……」
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