shelved novels

□+1年の海の話
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「いちにっいちにっ」
「山口、ちょっとペース落としてくれ。砂で足がもつれるんだ」
「い〜ち、に〜! い〜ち、に〜!」
「山口、ちょっとペース上げてくれ。持ち手が手に食い込んで痛い」
「いっちに、いっちに」

 ドスン、と重量感のある音。ロイとアニがクーラーボックスを運んで来てくれた。ロイはこれで疲れた手をぷらぷらと振って休ませている。中身は氷と大量の飲み物。お酒もある。私はドライバーだからお酒を飲めないけど、ソフトドリンクも充実。炭酸水もしっかりと用意されている。普通に飲んでも良し、お酒と割っても良し。
 ベティさんがバーベキューの道具を設営していたところに、大石君と菜月が具材を運んで来てくれる。菜月は緊張も少し解れたようで、穏やかな顔。お店の人たちもいるからか、飲み物や食材の量が本当に凄い。そもそも、私たちはお店の慰労会的な行事に飛び込ませてもらっている立場だった。

「……ベティさん、本当に参加費は、いいの…?」
「若い子が大勢いる方が楽しいじゃない。いいのよ、そんなこと気にしないで」
「でも……」
「よっぽど気に病むようなら心ゆくまで楽しんでちょうだい」

 炭に火が入り、いよいよ本格的にバーベキューが始まる。お酒も配られ始めたけど、私はドライバーだし学生組は海でも遊びたいからとしばらくの間は遠慮することに。お酒を飲んで海に入るのは危ないからやめようねーと大石君からの注意が前日のうちに入っていたというのもある。

「それじゃあ、まだまだ夏を楽しむわよー! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「なっち、何食べる?」
「イカ。ゲソある?」
「焼肉のたれ要る? 甘口とか辛口とかいろいろあるけど」
「塩コショウは?」
「なっちは塩コショウ派なんだね。はいどうぞ」
「ありがと」
「……何か〜、大石クンと絡んでる議長サンって、「誰!?」って感じ〜」
「ウルサイ、黙れ!」
「そうそう、これこれ〜。俺が知ってる議長サンはこれ〜。大石クンと絡んでる議長サンは内気で可愛い女の子〜って感じ〜」

 アニの言っていることには心の中で概ね同意しつつも、「ウルサイ」と虚勢を張る菜月も可愛い女の子である事実には変わりない。敢えて言うなら菜月をからかうアニは好きな子ほどいじめたい男の子という感じ。ロイはそんなアニを横目に、ふーふーと息を吹きかけて肉を冷ましている。確か、猫舌だから。
 少し様子見をしていたら、網の上がすっからかんになっていた。追加しなきゃと言いながら箸を銜えて食材のボウルに手をかける大石君には、ベティさんからお行儀が悪いわよとチクリ。

「美奈、積極的に取りに行かないと食いっぱぐれるよ」
「この1回で、学習した……」
「と言うか食ってんのほぼほぼお前だろ、大石」
「違うよ朝霞! 食べてるのは俺だけじゃないもん! 兄さんもいっぱい食べてるもん!」
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