shelved novels

□+1年の海の話
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 それから、車内ではそれぞれの恋バナで盛り上がった。私たちは基本聞き役に、ロイとアニの恋バナを聞いている感じ。現在進行形で彼女のいるロイの甘くない話に、1年生の時に付き合っていた子に今でもたまにアタックをしているアニの話がとても楽しい。男の子の話が新鮮だと思って。
 そんなことを話している間に星港市街を抜け、西海に入った。ここまで来れば後はもう慣れた道。菜月は海に強い憧れがあるらしく、少しずつ近付く海の気配にそわそわし始めている。ロイとアニはふた月前にこの道をドライブしたそうだ。曰く、この道を教えたのはリンだとのこと。確かに、リンの好きな道ではある。

「ここから、海岸に降りていく……」
「福井サンありがと〜」
「ミーナ、お疲れ」
「お邪魔しました」

 駐車場に車を止めて、海岸に向けてコンクリートの階段を下りていく。大石君らしき姿も確認したから、その方向に向かって歩く。こんな季節だから、他の時より人が多い気がする。海水浴には少し遅いけど、出来ないほどでもない。現に、私たちもベティさんから水着を持ってくるようにと言われていた。
 ちなみに、昨日から菜月と行動を共にしていたのは水着を買うため。その他の買い物や食事をしたりして、とても充実した1日を過ごした。菜月は焼けるし水着は恥ずかしいからと尻込みしていたけれど、何だかんだ言いながら目いっぱい悩んでお気に入りの1枚を見つけていたのが本当に可愛かった。シーズンオフも近いからか、安くなっていたのも嬉しかった。

「あっ、みんなー! 兄さーん、みんな来たよー!」

 大石君が私たちに気付いて、準備に奔走していたベティさんを呼び止めてくれる。ベティさんは幅広帽に大きな花柄のサマードレスがよく似合う。ベティさんとは初対面の菜月はやっぱり人見知りがここでも発揮されている。私の後ろの方でちょこんと様子を窺っていて、どうすればいいのかわかっていない様子。

「ベティさん、私の友達の、菜月……」
「あら、本当に可愛らしい子だわ。よろしくー! アタシ? 福井ちゃんとはラジオ局で知り合ったのよ」
「なっち、俺の兄さん。本名は千晴だけどみんなベティさんて呼んでるし、なっちもそう呼んであげて。体は大きいけど見た目より怖くないし、優しい兄さんなんだ」
「……奥村、菜月です」
「今日はお店の人たちもいるけどみんな優しいしいい人だから。あっそうだ。なっち、一緒に準備しよう」
「何をしたらいい?」
「えっとねー」

 大石君が戸惑う菜月に積極的に声をかけているところを見て、ベティさんは我が弟ながらいい子に育ったわと感心した様子で2人を見守っている。そう言えば、恋愛の意味とは違う意味での“好き”……フェチとか萌えとかの意味で、大石君は菜月の中で点数がとても高かったことを思い出す。本当に余談だけど。
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