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□星高の鍋の話
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「あーもしもし高ピー? 今どこー? ……えっ、マジでちょうどよかった!」

 伊東が電話をしているのを後目に、俺と宮林サンはひたすら下拵え。今日の参加人数は今ここにいる俺たち3人を含めて6人になる。高校の同級生の括りだ。
 6人で鍋を囲むという経験はほぼほぼない。ゼミの新年会もどきで飲み会はあったけど、ひとつの鍋につき基本4人、最大で5人だった。あらゆる想定は済んでいるであろう具材の量。
 本当にこんなに食べるのか、これが全部なくなるのかという不安はあるが、まあ、これでいいのだろう。その辺りは伊東の経験に賭けるしかない。

「浅浦ー」
「ん?」
「お前何飲むんだ? 一応甘くないヤツとは言ってあるんだけど」
「日本酒と焼酎メインで。チョイスは任せる」
「日本酒と焼酎ー。銘柄は任せるって。いや、俺も何がスタンダードなのかはわかんないんだけど、うん。あーはーい、はーい、はーい、待ってるよー」

 どうやら、伊東は高崎に買い出しを頼んでくれたらしい。普段聞いている話からすれば、酒の事なら高崎に任せておいて間違いはないだろう。
 定位置に伊東が戻ってくると、支度も加速する。何と言うか、“慣れ”が滲み出ている。ただ自分で食べる食事なら俺も普段から料理をするけど、会食仕様の量とか、手際とか。そういった物に対する慣れは段違いだ。
 シメは雑炊だし、卵はー、などと冷蔵庫を覗き込む様を見つつ、野菜をそれらしく準備する。今から考えると、おひとりさまの食卓に鍋が上ることはそうそうない。鍋の下拵えは奉行様の指揮待ちだ。

「ねーカズ、まだ団子作るのー?」
「慧梨夏、鶏団子鍋やってる最中にメインの団子がなくなったら残念すぎるだろ」
「まあね」
「それに、6人もいるんだから用意しすぎるくらいでいいんだ、高ピーと拳悟は量食うし。余ったら余ったで別のレシピに回せばいいだけだ」
「別のレシピって?」
「これを揚げて、甘酢あんかけにしたりとか」
「あー、いいね、おいしそう」
「普通に焼いて、つくねみたいにしたりとか。むしろ高ピーにはそっちのが需要あるかもしんないけど」

 夫婦(仮)の共同作業は続いている。便宜上、団子は俺が丸めたことにしなければいけないことになっているみたいだけど、甘酢あんかけ食べたさに宮林サンの手が加速する。
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