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□雨は浴びても酒は浴びるな
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「あっれ、エージにタカティ。何やってんのー?」

 そんな空気を破るように、彼らを呼ぶ高い声が改札口に響く。振り向けば、しっかりとトレードマークの花付きカチューシャを装着した射水ハナ。声の主だ。

「ああ、ちっこくて気付かんかったべ」
「自分だってチビの癖に!」
「あ、ハナちゃん」

 俺たちは見たまま雨宿り中だよ、と高木が状況を説明すれば、彼らがやってきた何本も後の電車で改札を抜けたハナは、天気予報を表示させた携帯電話を見せつけ、バカな同期を持ってしょぼーん、とおどけて見せる。

「降水確率100パーセント! それどころかこの辺一帯に大雨警報出てるのに傘持ってない、買わないとか」
「ンだとこのゴマ!」
「バカ豆と違ってハナは車に傘積んでるもんね。大学出るときに降り始めたから持ってきたもん」
「俺もハナちゃんぐらいの備えがあった方がよかったかな」
「タカティ、それでなくてもこの季節なんだから傘は持っといて損はないよ。紅社は梅雨とか関係なかったの? ハナが住んでた緑風エリアは雨雪が多いから傘持っとかなきゃやってらんないよ。年の半分雨か雪降ってるんだから」

 ハナは傘を開きながら、高木に彼の故郷を訊ねる。返って来る答えは、梅雨にはもちろん雨は降る、の一言。

「ハナちゃん、その傘に3人は入れないよね?」
「タカティ、ハナの傘小さいから1人がやっとだよ。って言うか大きくても豆は絶対に入れないけどね!」
「つーかこっちから願い下げだ!」

 じゃ、ハナは先にお店行ってるねー、と雨の中、傘を差してちゃぷちゃぷと歩を進めるハナの背中を目で追う。ただでさえ小さなその背中が遠くなり、さらに小さくなる様を見届けながら、自分たちは一体何をしているのだろうとさらに溜め息を。

「つーかもう結構な時間か」
「ホントだ。結構経ってるかも」
「マズいな」

 ハナが現れ、去って行ったことでようやく時間を確認すれば、結構な時をここで過ごしていたことがわかる。今までは悠長に立ち話をしていた彼らにもさすがに焦りの色が見え始める。

「どーすんべ」
「そろそろ濡れる覚悟をした方がいいかもしれない。どうしよう、この雨だったら携帯とiPodは守った方がいいよね」
「水没したらシャレにならんべ」
「走る?」
「走るか」

 覚悟を決め、目を合わせる高木と栄治。水没すると不味い物は、カバンの奥に丁寧にしまいこんだ。あとは、滝のように降りしきる雨の中をひたすら駆け抜けるだけ。

「せーのっ」
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