shelved novels

□雨は浴びても酒は浴びるな
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「エイジも飲む方なの?」
「俺は地元じゃ一番強いべ」
「へー、すごいね」
「お前はどうなんだ?」
「うーん、俺はわかんないなあ。あんまり派手に飲んだことはないから、ある意味今日がデビューかもね」

 一見、とても仲良く見える二人だが、彼らが仲良くなったのはごく最近のことだ。それどころか、それまではむしろ互いを嫌っていたほど。それがどうしてここまで仲良くなったのかと言えば、一本のギターにまつわるエピソードがあるのだが、それはまた別の話。
 彼らはまだあまりよく知らない互いのことを探りさぐり、飲み会への思いを馳せる。その様子を見ている限りでは、少なくとも酒好きには違いないだろうという確信を抱きながら。

「でも新歓がこんな時期っつーのも妙だよな。他のサークルとかはもっと早くやんのに」
「MBCCの場合、5月はイベントとかで立て込んでるし、6月頭の初心者講習会も終わらないと一段落つかないっていう事情もあるんじゃないのかな」
「なるほど、だから6月中旬」

 止むどころかむしろ激しさを増す雨にその季節を実感させられ、なお栄治は蒸し暑さを嘆く。それくらいになるとさすがに新入生も今いる以上には入ってこないだろうし、人数も確定してるっていう意味ではいい時期だと思うけどね、と高木は前評判通りの冷静さで飲み会開催の時期を分析していた。

「雨、酷くなってんな」
「止まないね」
「お前が傘ケチるからこんなところで足止め食らってるっていう」
「それを言うならエイジが自分で傘買えばよかったんじゃん、何で俺に期待したのさ」
「一本ありゃ二人くらい入れんべ」
「だからそれをエイジが買えばよかったっていう話」
「お前、自宅生に傘持ち帰らせる気か? 無駄に傘増やすと母ちゃんに怒られんだよ」
「だからって」

 傘を買うべきか買わざるべきかという問いに対する答えは「買うべきであった」に落ち着いた。しかしそこで発生するのは責任問題。誰が傘を買うべきだったかの口論は止まらない。

「それならエイジが俺に傘奢ってくれれば済んだ話じゃん」
「お前なあ」

 何という馬鹿なことを真顔で言うのかと溜め息をひとつ。雨による不快感がなくても出ていたであろう重い溜め息が、場をそれまでの抗争ムードから一転させた。何を言っても仕方がない。そんな諦めにも似た空気が場を包み、湿気と共に纏わり始めていた。
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