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□たおやかな乙女の柔肌
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 頬は薄紅色に染まり、額にはじわりと汗が滲んでいた。カコン、と響く鹿威しの音が風情を増す。長い髪をまとめ上げ、肩まで湯に浸かればちょっとした楽園気分。

「はー……」
「いい気持ち……」
「美奈、連れて来てくれてありがとね」
「……ううん、私も、来てくれて嬉しかった……誰を誘おうか、悩んでたから……」

 有名温泉地である割に、偶然にも宿には人があまりおらず、温泉は実質貸し切り状態。そんな贅沢なシチュエーションに二人は既に満足している。
 元はと言えば、宿のペア宿泊券は美奈がショッピングの際にもらった応募券を何となく箱の中に入れたら当選してしまった物だ。しかし、ペア宿泊券となると誰と行くのかという問題が出て来る。
 大学で仲のいい友人は男子がほとんど。理工学部という学部故の男女比が壁となる。家族、友人の妹、バイト先などツテを思い浮かべても、誰もパッとしない。
 粗方心当たりを思い浮かべ、最後の辺りでようやく出て来た菜月の顔に、美奈はメールを作成していた。断られたら、その時は温泉ごときっぱり諦めようと決意して。
 いい返事をもらってからは、来る日も来る日もこの日のことを想像していた。必要な物は何か、髪や肌のコンディションも整えておきたい。そんな準備に明け暮れながら。

「前から思ってたけど……菜月、肌、白い……」
「元々だよ」
「雪国育ちだから…?」
「なのかなあ。高校までの部活も体育館だったし。でも、焼けると赤くなって痛くなるから大学上がってからは夏でも何か羽織ってるかな。焼けてもすぐ戻るけど」

 上気し、薄っすらと頬が染まっても、菜月の肌は色白なのがよくわかる。本人は雪国で育った環境も大きいと語るのを、美奈は頷きながら、羨むように聞いている。
 日が落ち始め、二人のいる露天風呂にも照明が点る。人工的な白い光が湯に射し、湯に揺らめく光は菜月の腿をより白く浮き上がらせる。それが目に入り、菜月は白すぎて気持ち悪いと呟いた。

「でも、美奈の肌もすべっすべ。さっきからお湯がころんころん転がってる」
「それは、温泉だから……」
「かけ湯の時点で水弾いてたじゃん。普段から気を遣ってんだよね」
「私は、生活が不規則だから……気を付けないと、あらぬことに……」
「そっか、遅くまで研究とか実験とかやってたりするんだっけ」

 理系の学部で夜遅くまで研究室に籠ることのある美奈は、人一倍肌の手入れには気を遣っていた。元々美容やファッションなどへの関心が強いということもあり、いいと思ったものは積極的に取り入れている。玉のように水を弾く肌も、その手入れの賜物。
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