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□たおやかな乙女の柔肌
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 ひとまず湯から上がり、二人並んで洗い場に腰掛ける。腰掛けがタイルに打ち付ければ、カボン、と籠った音が響く。閉じた脚の上に手拭いを置いた。

「あー、体洗うタオル忘れたー」
「……それじゃ、なくて…?」
「うち、ジャリジャリのナイロンタオルが好きでさ。固めのヤツ」
「……肌、痛める……」
「でも洗った感があると言うか」

 すると、美奈はおもむろに手の平で泡を作り始めた。手の中でみるみる大きくなる泡は、菜月には魔法のようにも思えた。きめ細やかな泡を自分で作ることなど夢のまた夢。それも日頃からの技術なのだろう。

「ナイロンタオルで強く洗うと、肌を傷付ける……大きな泡で、包むように洗うのがいい……」
「でも、そんな泡なんて作れないし」
「この泡、使って……」
「あ、ありがと」

 美奈からきめ細やかな大きな泡の塊を受け取った菜月は、そのまま恐る恐る泡を体の上に滑らせていく。その様子を見ながら、美奈はまた手の平で泡の塊を生み出していく。

「あ」
「……背中、届く…?」
「届かないことはない、けど……ちょっと、肩、つら…!」
「背中……流す…?」
「え」

 返事を待たずに美奈は手の平で作っていた泡を菜月の背中に広げていく。突然のことにどうすればいいのかわからずにただただされるがまま、菜月は鏡の前でじっと座っている。
 決して直接触れているわけではない。泡を介している。それでも、ただ触れられるのとは、ただ触れるのとは少し違う、複雑な感情が湯気に紛れて漂い始めていた。

「……菜月、いくつか、ホクロが……」
「目立つから恥ずかしいんだ」
「セクシーで、チャーミングだと思う……」

 恥ずかしいと言って菜月はその箇所を手で覆った。ヘソから拳ひとつ分ほど上にあるそのホクロは、白い肌の上に乗るからこそより存在感が際立っていた。

「そうは言っても、気になる物は気になるし」
「気に障ったなら、ゴメン……でも、私は、純粋に綺麗だと思った……」
「次、美奈ね」
「え…?」
「背中」

 一旦泡を流し、菜月は手の平で泡を作る。ただ、要領を得ていないのか美奈のようにきめ細やかな大きな泡にはならない。今か今かと痺れを切らし、美奈が振り向くと、何度も泡を作り直す菜月の姿が無邪気な子供のようで代えがたい愛おしさが込み上げる。

「泡、作るけど…?」
「自分でやる」
「……そう」
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