shelved stories

□2012-2013
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■GREENsの縄跳び談義

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「うー、さっむーい」
「今日めっちゃ冷えるっすね」
「鵠っち、こんな時はエア縄跳びだよ!」
「エア縄すか。あーでも確かに効果はありそうっすね」

 寒い寒いと言いながら、無駄に飛んだり跳ねたりして無理にテンションを上げるのが冬っぽいような気がする。体育館なんて場所はだだっ広いし、人がいたって暖房をつけたってなかなか暖まらない。それなら体を動かしてこの環境に慣れるのが一番の近道。

「おーい、みんな久し振りー」
「あっ、美弥子サン!」
「伊東サンお久し振りっす!」

 重い扉が開いたと同時に響く声は、本当に久し振り。卒業研究は終わったのに、今度は春から就職する会社の入社前研修だとか卒業旅行なんかでなかなか忙しいらしかった伊東サンだ。そんな伊東サンを、慧梨夏サンがぴょんぴょん跳ねながら歓迎するのだ。

「慧梨夏ちゃんは元気だねー」
「空元気ですよ、さっむいさっむい」
「てかそんなにぴょんぴょん跳ねて胸大丈夫? 相当揺れるっしょ」
「そりゃ胸は抑えてますよ」
「このデカ乳がー!」
「ちょっ美弥子サン! てか本気で揉みに来てるじゃないですか!」
「カズの物はアタシの物でもあるし。大人しく揉まれなさい」

 まあこの義姉妹のノリは相変わらずだ。その場に巻き込まれた俺の目のやり場はどうすればいい。慧梨夏ちゃんは元気だねー、と遠い目をしながら言った伊東サンだって十分元気だ。その2人を眺めながら、俺はその場で駆け足を続けている。

「大体美弥子サンだって小さくはないじゃないですか。むしろ美しい部類だと」
「つかそーゆーのは義姉妹だけでやってくれって何度言えばわかるんすか」
「何か鵠ちゃんって空気なんだよね」
「ああ、わかります」
「それは俺の存在感がないっつーコトすか」
「そうじゃないそうじゃない」

 だからと言って女子校のようなノリでずっといられるのも困る。そういうのを察知してそれとなく場を離れられればいいんだろうけど、そういう能力はまだないらしい。

「うー、さっむ。やっぱ跳びます」
「あ、そうそう慧梨夏ちゃん、これ」
「縄跳びですか?」

 話が一段落したところでエア縄跳びを再開しようとした慧梨夏サンに差し出されたのは、青い縄跳び。まるで、冬になると慧梨夏サンがエア縄跳びを始めるのがわかっていたかのように。タイミングとしては少し遅めだけどね、と付け加えて。

「実家のカズの部屋から持ってきた。慧梨夏ちゃんと言えば冬のエア縄跳びだからね」
「あ、ホントだ。名前書いてますね」
「この縄跳びね、雅弘と色違いのおそろなんだよ」
「ちょっまたネタを! 浅浦クンのは何色ですかやっぱデフォ色の赤ですか」
「つか伊東サン、弟サンの部屋勝手に漁るんすか」
「縄跳びだけなら持ってってもいいって許可は取ってるし」
「そうなんすか。てっきりそういうところも姉弟間の強弱関係が適用されてんのかと思ったっす」
「疚しい物を探すなとは言われてないからばっちり家捜しはしてるけどね」

 聞けば聞くほど伊東家と言うか、慧梨夏サンカップルと言うか。その両方における弟サンと言うか彼氏サンと言うか、その人の立場が何だかいたたまれなくなってくる。
 相変わらずきゃっきゃと姦しい伊東義姉妹のやり取りに耳を傾けつつ、俺は俺で小刻みな駆け足を続けている。実際この2人のやり取りが忙しくて寒さも少し紛れてはいるけど。

「疚しい物、ありました?」
「それを言うとまた鵠ちゃんが照れちゃうからなー」
「俺が照れるような物なんすか」
「――って美弥子サン何見つけたんですか!」


end.


++++

浅浦クンの縄跳びはやっぱりデフォ色の赤だよ! つか部屋に縄跳びあるとか物持ちいいね。
慧梨夏がぴょんぴょん跳ねるとやっぱり胸が強調されてしまうらしい。そこはほら、お義母さんのブランドの商品つけなさいよ(笑)
そしてGREENs内の強弱関係も見えてきたような。鵠さんがだんだんエア男みたくなってきたね!がんばれえええ

書いたのは去年12月。ちなみに上のあとがき的なのも原文ママで準備してたんだけどタイミングを逃した。

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