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□星高の鍋の話
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 月曜の夜という、一風変わった時間から始まる鍋パーティー。指定された時間に会場となっている伊東の部屋に行ってみると、そこでは家主の伊東とその彼女の宮林サンがせっせと支度をしているところだった。

「おー浅浦、来たか! はい、お前は野菜な!」
「ちょっと待て伊東、荷物くらい置かせろ」
「ったく、早くしろー」

 野菜の下拵えをしながら、今日のこれまでの経過を聞いていた。昨日から鍋のだしを取って、材料の準備をしていたこと。宮林サンの花嫁修業ついでに鶏団子を丸めさせていることなんかを。
 団子をピンポン玉くらいの大きさに丸めることがどう花嫁修業なのかとも思うけど、一切の家事が出来ないこの人にはこのくらいから始めるのがいいだろう。
 この人が調理に携わったと聞けば、高崎は拒否反応を示すかもしれない。それは、知る人ぞ知る高崎のトラウマ。俺もその現場を見たけれど、凄惨な現場だったと表現する他にない。

「つか、これだけの挽肉を用意するときは結構な費用がかかるんじゃないのか。予算は大丈夫か」
「いや、挽肉じゃなくて自分でミンチにしてる。塊で買った方が安いじゃんな。フードプロセッサーもあるけど包丁で練る方が肉のうまみが逃げないらしいし、包丁でやりつつ具材を混ぜながら――」

 今も、まな板の上では伊東が包丁をタンタンと躍らせていて、出来上がったミンチを宮林サンが丸めるという流れ作業。もしかすると、初めての共同作業、というヤツなのかもしれない。
 いくら一切の家事、今語るべきなのは料理。それが出来ないとは言っても、均等な大きさで団子を作るくらいは出来ますとドヤ顔の彼女がどこか微笑ましい。

「酒は?」
「MBCC流で各自。拳悟は明日仕事だから飲まないらしいし、俺と慧梨夏はともかく高ピーとリンちゃんは予算の範囲で収まる気がしない」
「そういうことは先に言えよな。買いに行かなきゃいけないだろ」
「誰かに頼めばいいじゃんか」
「高崎もリン君も俺が気安くパシるには近くないからな関係が。友達の友達くらいの距離感だぞ」
「つかお前車は?」
「置いて来た。お前の部屋なら徒歩圏内だし」
「飲む気マンマンだな」

 じゃーうちが頼んだげると彼女がケータイを取り出そうとするも、伊東がそれを制する。意気揚々とビニール手袋を外そうとしていた彼女は膨れ面だ。
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