shelved novels

□MMP打ち上げ話
1ページ/3ページ

「去年と同じだな」

 それが何を指した言葉なのか即座には理解できなかった。彼女が唐突に言葉を放つのは今に始まったことではないとは言え、サークル室に入ったなりにそんなことを言われれば、何のことでしょうと尋ねるのが精一杯。

「お前が着てるTシャツだ」

 パタンという音の中にもずっしりとした重みを感じる。いろいろな場面で撮り溜められた写真がこれでもかと納められているアルバムだ。どうやら菜月先輩はそれを眺めていたらしく、俺はそのページの中の俺と同じ服装をしているらしい。
 俺たち情報科学部の学生は、冷房がガンガンにかかっている情報知能センターでの授業が多い。半袖なんか着ていたら寒くて風邪をひいてしまうだろう。良くて冷房が原因の夏バテ。だから長袖を着て自己防衛するのは基本。
 まあ、一歩建物から出てしまえば炎天下、あるいは蒸し暑い中で長袖を着ているという馬鹿丸出しの服装。菜月先輩からも、よくお前の服装は見ているだけで暑いとの苦情をいただく。でも、それっくらい情報の教室は寒い。
 今日はMMPの前期打ち上げだ。6時半開始ということになっている。それから9時頃まで飲むことになっている。まあ大学の外に出ることもあって今日は半袖を着てきたんだけど(とは言え薄手のパーカーは羽織っている)。

「ほら、これが去年同時期にあった打ち上げのページだ」
「あっ、本当ですね」

 写真と今の自分を見比べて、本当に全く同じ服装をしているなと苦笑い。それだけ服のバリエーションがないとも言えるんだけど。

「とりあえず、今日の打ち上げもちゃんと記録には残すぞ。ノサカ、それを踏まえた上で来年を考えるんだな」
「それはどういう意味でしょう、菜月先輩」

 それくらい自分で考えろと一蹴。まあわかっていたけど。
 それより怖いのは今日の打ち上げも記録に残すぞという部分だった。菜月先輩とインスタントカメラの組み合わせは最強だ。陳腐な言葉ではあるけどそう表現するのが適しているように思う。
 デジカメなんかだとピントを合わせたり、シャッタースピードの関係もあって狙った瞬間を逃していることも少なくない。ただ、使い捨てカメラだと本当に一瞬だ。隙を見せればやられる。そうやってこの分厚いアルバムに何でもないMMPの常が記録されてきたのだ。

「飲み会は妙なテンションだからな、後で客観的に見ると何とも言えないだろう。それが楽しいんじゃないか」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ