shelved novels

□雨は浴びても酒は浴びるな
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 不快指数ばかりがぐんぐんと上り調子だった。降り止まない雨、夏に向けて上がり始めた気温が織り成すハーモニー。中津川栄治は、かぶっていたキャップをうちわ代わりにこの不快さから逃れようと足掻く。それを横で見ている高木隆志も同様に、黒いトートバッグから取り出したファイルで風を送っている。

「あーもう、マジで暑くてやってらんないっていう」
「でもまだ6月だし、これからまだまだ暑くなるって考えたらこれくらいで根は上げられないんだろうけど」
「冷夏になんねーかな」
「それはそれで農業関係者の人が困るんじゃない? 野菜とかの値段が上がると俺が困るんだけど。あと、ラニーニャ現象は終わったらしいよ」

 食糧価格が上がると生活するのにも一苦労だよ、と大学に入学するにあたり一人暮らしを始めた高木は嘆く。これに対して栄治は、そんなに金がないならバイトのひとつでもすればいいと彼を嗜める。まだまだ生活は様子見中と言わんばかりの雰囲気を醸した、暢気に光るメガネの奥の瞳はそれを聞いているのかいないのか。
 彼らが雨を凌いでいるのは大学近くの駅の改札口だ。この日、彼らが所属する「緑ヶ丘大学放送サークルMBCC」では新入生歓迎コンパが開かれることになっている。
 歓迎されるのは自分たちとは言え、あくまでも下っ端には変わりない。遅刻しては大変だと少し早めに大学を出た。その時点で雨は降っていなかったが、鉛色の空を憂いだ栄治が大学構内の購買で傘を買うかと提案した。しかし、高木は大丈夫だよの一点張り。結局、そのまま傘は買わずに電車に乗り込んだ。
 結果、こうして雨に降られているのだからお笑いなのだが、まだまだ飲み会までには時間に余裕がある。これが通り雨であることを願いつつ、雨宿りついでの立ち話に花が咲いていたところだった。

「そーいやMBCCで飲み会って初めてだな」
「そうだね。俺は先輩と個人的に飲んだことならあるけど、サークル全体での飲み会っていうのは初めてだね。どんな感じなんだろう」
「誰と飲んだんだ? つーかいつの間に」
「えっと、初めてサークル見学しに行った日かな。高崎先輩と伊東先輩と」
「そっか、お前サークル入んの超早かったもんな」
「四月一桁台にはもう入ってたしね」

 高木はふた月ほど前になるその時のことを思い起こし、高崎はかなり飲むタイプだと栄治に伝えた。すると栄治の目が不敵に光り、ソイツは楽しみだと笑う。彼の見た目通り、期待は裏切らなさそうだと付け加えて。
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