リクや頂き物

□年下の男
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講義を終えて部屋に帰ると見慣れた顔の男がいた。

端正な顔立ちのくせに仏頂面のその男は、この部屋の主が帰ったというのに「月刊バスケットボール」とかいう雑誌を夢中で読み耽っている。

本当、マイペースな事この上ない。

ちなみに彼は弟の後輩。

たまたま試合を見に行った時に初めて会って、顔が好みだからとちょっかいをかけてみると、意外な事にのってきた。

それからというもの、こうしてちょくちょくと一人暮らしの私の部屋で勝手に寛ぐようになったのだ。

とは言え、合い鍵は渡してあるからそれなりに親密な関係だと思う。

だからってつき合ってるかと問われると、それもなかなか難しい。

なぜなら彼の口から「好きだ」とか「つき合おう」とか言う言葉を一度も聞いたことがないからだ。

会っても特に一緒に出掛ける訳でもなく、気が向いた時にバスケの練習に付き合わされるのがいつものパターン。

なのに身体だけはしっかり求めてくるから、やっぱり親密なんだと思う。

が、しかし私達の関係は?と問われると返答に悩んでしまうのだ。


単なる遊び相手?


思春期真っ盛りの高校生だけに、そういう事に興味があるだけなのだろうか?


よく分からない関係に考えるのも疲れて、近頃はそんな風に考えるようにしていた。


まあ、高校生相手に本気になるってのも、20歳を超えた私からしたら悔しいもんだし、それはそれで構わないんだけど。


そんな事を考えながら相変わらず雑誌を読み耽る彼の隣に腰を下ろすと、彼もようやく私に気づいたらしくパタリと雑誌を膝の上に置いた。


「ただいま」


「おかえり」


短い会話は特に続く訳でもない。

何より『今日学校どうだった?』とか、『勉強頑張ってる?』とか聞けるほど私も大人じゃない。

だからテレビでもつけて沈黙を紛らわせようとリモコンに手を伸ばしたら、何故かその手を掴まれた。


「何?」


帰宅早々、事にでも及ぼうとしてるのか。


若いって本当にスバラシイ。


半分関心しながら、もう半分は呆れながらも彼の顔を見つめ返すと、彼はいつもみたいにむっつり押し黙って私の顔を見ていた。



しばらくの沈黙。



何とも言えない心地悪さにじれったくなって、もう一度「何?」と尋ねる。

すると彼は私の目を見据えたまま小さな声で呟いた。



「好きだ…」



「は…?」



この時の自分の顔は正直言って想像もしたくない。

絶対に間抜けな顔をしていたはずだから。

でもいきなりそんな事を言われても、何の事やらさっぱり分からなかった。

ぽかんと口を開けて目を合わす私から彼はぷいっと視線を逸らす。

そして再び小さな声で「まだ言ってなかったら…」と呟くと、ようやく私の手を解放した。

唐突に起こった出来事に頭がうまく働かない。


さすがの彼も固定されたまま動かない私の視線を鬱陶しく思ったのか「なに?」と仏頂面で睨み返してきた。


「…何でもない」


再び沈黙が流れた。

先程よりも一段と息苦しいのに、今度は言葉も出て来ない。

ずっと黙ったまま真っ黒な画面のテレビを見ていると、いつもは無口な彼の方が口を開いた。


「…アンタは?」


「へ?」


問われた言葉の意味を考える。

この場合は、私が彼を好きかどうかって事を尋ねられているに違いない。

問題はなぜそんな事をいきなり聞いてくるのかだ。

しかしよくよく考えてみると、私もその手の言葉を口にした事がないって事に気づいた。

なるほど。

彼も彼なりに、この曖昧な関係が何なのかと考えていたのか。


いつも仏頂面で何考えてるか分からないくせに…。


少し間を置いて、彼に負けないくらい小さな声で呟いてみた。


「好きに…決まってるでしょ?」


その言葉は口にしてみると思いのほか恥ずかしい。

もう就活とかしなきゃいけない歳なのに、学生服のよく似合う年下の男に何言ってんだって自分でツッコミみたくなったくらいだ。

でもこの時は口が勝手に動いてしまったのだから仕方がない。


果たして彼は何と答えるだろうか?


だが、横目でチラリと視界に入れた彼の反応は特にない。


何だそれ。


一体何のつもりだったのかと聞いてやろうかと思っていると、彼の身体がゆらりと揺れた。

そして次の瞬間には彼の頭は私の膝の上に乗っていて、お腹に顔を埋めながら定位置を探すかのようにもそもそと動いていた。


「ちょっと…」


「……寝る」


ぎゅっとお腹に顔を埋められて長い腕が腰に回される。


何だったんだ、さっきのは?


釈然としないが、寝ると決めた彼から何かを聞き出すのは容易な事ではないと知っている。

仕方がないので彼の頭に手を置いて、ゆっくりと髪を撫でてみると、腰に巻かれた腕に力が込められた気がした。


ふと彼の横顔を見ると、うっすら頬が赤い。

それを見てると思わず笑みが零れた。



………何だ、可愛い所もあるじゃない。



しばらく頭を撫でてると、程なくして寝息が聞こえてきた。


そんな彼の寝息を聞きながら、『年下にハマってみるのも案外悪くないのかもしれない』なんて考えつつ、私もベッドに背をもたれて目を閉じた。





〜あとがき〜

アンケートにあった年上ヒロインものです。
あまり年上とか年下とか感じないんですが。。。

きっと流川視点から書くと、可愛らしい流川になるんでしょうね。
たぶん『オレの事どう思ってんのかな?』とか悩んでたりして、それを先輩に無理矢理相談させられたに違いありません。

ところで今気づきましたが、名前変換もない上に流川の名前すら出て来てませんね(>_<)

まあ、流川が苦手だって方は別のキャラに置き換えて妄想して下さい。
藤真、越野、三井辺りがオススメです(笑)

ちなみにヒロインの弟が誰か、これも想像にお任せします。

ではアンケートにコメント下さった方、ありがとうございました!






 

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