藤真連載

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「は!?何だよそれ!!」


そろそろ部活が始まろうとする時間、バスケ部の部室はいつもの静けさとは打って変わって、ある話題で持ちきりだった。

話題を提供したのは高野。

それに乗ってきたのは他の部員達。

唯一視線を逸らしたのは花形のみ。

廊下からは下級生の好奇の視線が室内に集まる。

余談だが翔陽バスケ部は部員が多いため、3年以外の部員にロッカーはない。

特例としてベンチ入りしたものには下級生でもロッカーが与えられる。

その他の下級生達にはロッカーも着替える部屋すらなく、部室の外や体育館になどで着替えを済ます。

部員の多くは更衣室から部室への荷物移動を嫌って、部室近辺で着替えるのが常なのだが一般学生にとっては迷惑極まりない話である。

だがこれも、毎年部員の多いバスケ部だけに仕方のない話。

打開策として既に部室は2つ持っているが、それでも足りずに学校側としても頭を抱えているのが現状だ。

よって現在は多少迷惑だろうが、学校側も目をつぶっている。

ちなみに2つも部室があるとややこしいので、2つ目の部室は倉庫と呼ばれている。

着替えた下級生は荷物を倉庫に放り込み体育館へ集合する。

部員の荷物のみを収納する場所、すなわち倉庫という事だ。

話は逸れたが、この日のバスケ部はいつもと違っていた。

冒頭で藤真が叫んでいた訳…それは屋上での出来事がきっかけだった。


「だから藤真、彼女出来たんだってな?」


藤真は唖然とした。

本当に自慢ではないが藤真に現在彼女はいない。


「屋上で授業サボって膝枕してたってな」


この永野の発言にも藤真はひたすら唖然。

花形はわざとらしくならないように少し離れた。


「何だよそれ!?」


例の屋上での弁当バトルが誤解されて噂になっているのだ。


「その噂、オレも聞きました。なんか屋上で膝枕で耳かきしてたとか」


「してねーよ!」


伊藤のさりげない一言ですでに噂は2年の間にも広がっていると推測される。


「やっぱりあれ本当だったんだ…」


追い討ちをかけるようにヒソヒソ広がる一年の声から、もはや学校中に広まっている事が窺われた。

それなのに藤真本人は何も知らなかった。


「どういう事だ花形!」


当然の如く怒りの矛先は花形に向いた。

こそこそと部室を出ようとしていた花形はギクリとした。

実は花形も噂を耳にした。

というより、例の件を目撃した男子生徒は真っ先に花形に確認に来たのだ。

むろん花形は何も知らないと言い張ったのだが、誰も信じてはくれない。

空腹が原因とは知らなかったが、朝から機嫌の悪かった藤真を下手に刺激もしたくなくて黙っていたのだ。

藤真本人もこの日は昼ご飯を屋上で済ませ、午後の休み時間は寝て過ごしていた。

噂が耳に入らなくても不思議ではない。


「けどさ〜、いまひとつ相手は特定されてないんだよな」


「そうだな。3組の山下とか2年のバレー部の女子とかさ」


永野と高野は首を傾げた。

ちなみに3組の山下さんは翔陽高校の中でもかなり上位ランクの美人さんだ。


「あ、オレ一年って聞きましたよ?」


怒る藤真を無視して伊藤を含め、高野達は盛り上がっていた。


「…」


3人の会話から相手が特定されていないという事を知り、少し落ち着きを取り戻した藤真。

この分なら噂はすぐに消えるだろう。


何事も起こらなければ…


今回は思い当たる節もあり動揺したが、藤真に到ってはでっちあげを含め、この手の噂話はよく出回るのだ。


「もういいか?」


胸倉を掴まれて、藤真の視線の高さまで引っ張り下げられている花形は、落ち着きを取り戻した藤真に問い掛ける。


「つぎ何かあったら報告しろよ」


思い切り引っ張って離すと花形は少しよろけながら頷いた。

藤真の噂の相手は誰かと盛り上がる3人を無視して着替えを続ける藤真。

こういう話は無視するに限る。


「そういや一志はどうした?」


よく見たら長谷川がいなかった。


「さあ?いつもならとっくに来てるのにな」


長谷川のロッカー付近には長谷川が来たという痕跡がなく、花形も首を傾げた。



「やめろ〜〜!」



その時、遠くから長谷川の叫び声が聞こえてきた。

ざわつく部室前の下級生達。

そして続く長谷川の情けない叫び声。


「な、何だ?」


入り口近くにいた花形は外を覗いた。

そこには猛ダッシュでこちらに向かってくる長谷川と、それを追いかける女子生徒。

よく見るとその女子生徒は花形の妹ではないか。


嫌な予感がする…


花形は訳のわからない不吉な予感で身を震わせた。






 

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