ショート夢(SD)

□先生と藤真くん
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6限が少し過ぎた頃、突然入り口の扉が開いた。


ガラッ


こんな時間に生徒が来るなんて珍しいわね。


「そこにクラスと名前書いてね〜って……」


そう言いかけて入り口に目を向けると、そこは学校の『王子様』が立っていた。


「何だ、『藤真健司』か」


「何だとは何だよ?せっかく暇だろうって顔見に来てやったのに」


藤真健司は部屋の真ん中に置かれたテーブルに来ると、ドカッと椅子に座った。


「顔見にね…。どうせ授業がつまんないとかで抜け出して来たんでしょ?」


「半分当たり」


テーブルに置かれたボールペンをクルクルと回しながら、笑って答える藤真健司。


「いい加減にしなさいよ?いくら優秀な『藤真健司』くんでも、出席日数は免除されないわよ?」


「ひでェな、オレは純粋にセンセーの顔見に来たのにな〜」


藤真健司はそう言いながら慣れた手つきで紙に記入事項を書き込み始める。

だって彼はこの保健室の常連なのだから。


「はいはい。気がすんだら授業に戻りなさい」


「ケチ」


私が紙を取り上げて軽くたしなめると、彼はむくれた顔でベッドに向かった。


「こら、勝手にベッドに寝ないの!」


「んー、ちょっとだけ……」


掛け布団のないベッドの上に寝転がる彼に妙に違和感を感じる。


いつもは制服が皺になるのを嫌がって上着は絶対に脱ぐのに…。


「……ねぇ」


「ん〜?」


「ちょっと熱測ってみなさい」


私は体温計を手にすると彼に差し出した。


「いいよ、熱なんてねェし」


「ダーメ、測りなさい」


体温計を無理矢理差し込むと、彼はムスッとした顔で黙って熱を測り始めた。


「……38.5℃」


やっぱり…。


「帰宅コースね」


体温計をしまいながらそう言うと、藤真健司は相変わらず寝転がったままむくれた顔をしている。


「無理、今日は部活休めねー」


「部活なんか無理に決まってるでしょ?」


「少し寝たら大丈夫だって」


「ダメよ!家に連絡してくるから…」


そう言って職員室に行きかけると腕を捕まれた。


「藤真くん?」


「絶対ェ帰らねーし…」


「でも…」


身体を半分起こして私を見つめる彼の目は少しだけ寂しそうだった。


ああ、そうか。


彼の親は仕事でたまにしか家に帰らないんだった。


「ったく……」


私は彼の手を離すと隣のベッドから掛け布団を持ち上げて、彼の寝ているベッドに乗せた。


「ちゃんと布団かけないと余計ひどくなるわよ」


すると彼は一瞬だけ動きを止めたが、すぐにフッと笑った。


「……さんきゅ」


藤真健司はようやく安心したように息をつくと、上着を脱ぎはじめた。


「しんどいならしんどいって早く言いなさいよ。冗談なんか言ってる場合じゃないでしょ?」


布団をかけるながら嫌味を言うが、彼は少し余裕が出来たようで負けずに言い返してくる。


「別に冗談なんか言ってねーだろ?顔見に来たのは本当だし」


「もういいって」


呆れたように彼を見ると彼は笑っている。


「…冗談じゃねーよ」


じっと私を見つめる目が何を言わんとしているかは長い付き合いからすぐに分かった。


全く素直じゃないんだから……。


窓側のカーテンを閉めて時計を確認する。


もうすぐ授業終わるわね。


「ちょっと行ってくるわ」


ついでに彼が眠るベッドのカーテンを引こうとすると、彼の瞳が一瞬だけ揺らいだ。


「どこ行くんだよ…」


ほら、焦ってる。


「車回して来るのよ。ついでに直帰出来るように頼んでくるの」


「どっか行くのか?」


「アンタの病院……」


「病院なんか……」


彼が身体を起こそうとしたので私は軽く制止する。

そしてフッと笑うと彼はムッとした顔で私を見上げていた。


すーぐ怒るんだから。


案の定、クスクス笑う私を見て「何笑ってんだよ!」と声を荒げてた。


寂しいなら寂しいって言えばいいのに。


私はひとしきり笑うとそのまま彼に手を伸ばす。


「病院ってのは名目で、そのまま家に帰るに決まってるでしょ?」


「オレの事置いて帰る気かよ?」


フワッと彼の前髪をかきあげると相変わらずむくれている藤真健司。


本当可愛いんだから。


「誰がアンタを置いて帰るって言ったのよ?」


今にも飛び起きそうな勢いの彼の額をペシっと叩く。


「もちろん一緒に決まってるでしょ?健司」


そしてそのまま額に口づけると、健司は少し顔を赤らめた。


「…たりめーだ」


照れ臭そうに視線をずらして布団を口元まで引き上げる健司。

それを見て私は再びクスクスと笑った。


「食欲は?お粥くらいなら食べれるの?」


「…玉子が入ったヤツなら食う」


布団にくぐもった返事が妙に愛おしい。


「了解」


私はそう言って微笑むと、カーテンを引いて職員室に向かった。




『何で口開けて待ってんのよ』


『病人に自分で食えって言うのかよ』


『素直に食べさせてって言えばいいのに…』


『……ちゃんとフーフーしろよ?』


『はいはい』



〜あとがき〜
アンケートでコメントいただいた甘えん坊なケンちゃん…のつもりです。
私の思うケンちゃんは素直に甘えられないタイプ。
だからこれが精一杯なんですよ(笑)
ついでに先生と○○シリーズということで、お相手は保健の先生です☆

では、最後までお読みいただいてありがとうございます!


 

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