ショート夢(SD)

□日常と非日常
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今日はすっごく疲れた。

担任になるとやる事がたくさんで大変だとは聞いていたけど、本当の所はナメていた。

連日持ち帰る仕事の山。

帰ったらとりあえず少しだけ寝たい…。

怠い身体を引きずって、ようやく辿り着いた我が家。

重たい玄関のドアを開けると見慣れたスポーツシューズが目に入った。


また来てる…


アイツが大学に入って合い鍵を渡して以来、流川くんは毎日のようにウチに顔を出していた。

会えないよりは会えた方がいいので、来てくれるのは別に構わない。

問題は別の所にある。


アイツが来ると寝れないんだよなぁ。


若さゆえ仕方ない事なのだが、二人で夜を過ごすとどうしてもオマケがついてくる。

それが一度なら構わないけど、流川くんの場合はそれで終わらない。


今日は寝たいから、明日の朝に回してもらえないかなぁ。


無理だろうな、と思いつつも私は部屋に上がった。


「ただいま〜」

リビングのソファーには部屋着で雑誌を読む流川くんがいた。

既に数冊の雑誌が散らかってる所からすると、今来たという感じではなさそうだ。


「何でこんな遅ェの?」


流川くんに言われてチラッと時計を見ると時刻は9時を過ぎていた。


「今日は特別…。色々と仕事が重なってて終わらないのよ」


「ふーん」


興味なさそうに雑誌に目を落とした流川くんを確認して、私もソファーに身体を投げ出した。


「疲れた〜」


流川くんの隣に座って身体を伸ばしていると、流川くんはパタンと雑誌を閉じた。


「飯食った?」


「まだ。だけど今日は遅いからいらない」


「何か食っていい?」


「好きにして〜」


私がそう言うと、流川くんは雑誌をテーブルに置いて立ち上がった。

ソファーの背もたれに身体を預けて目をつぶっていると、数回冷蔵庫を開ける音がした。

程なくしてトントンとまな板を叩く音がしたかと思えば、ジューッとフライパンの音がする。


香ばしい臭いからして、これはきっとチャーハンかな?


匂いに誘われ目を開けて見れば、対面カウンターの向こうではフライパンを器用に揺する流川くんの姿が映った。

意外な事に、流川くんは料理を作るのが結構うまい。

だから、ウチに来ると必ず何かを作って食べるのが当たり前になっていた。

私はソファーに座ってキッチンに立つ流川くんをジッと見ている。


当たり前の光景…。


きっと『あの頃』の私が見たら、驚くに違いない光景なのだけど。


流川くんがお皿を抱えてこちらにやってきた。

今日はソファーに座って食べる事にしたらしい。


「イタダキマス」


律儀に手を合わせる流川くんの目の前には、テンコ盛りのチャーハン。


「そんなに食べるの?」と問えば、流川くんはコクリと頷いた。

さほど食べたくないとは言っても、目の前で美味しそうな匂いがすれば少し口にしたくなる。


「ねぇ、一口ちょーだい?」


「やだ」


「ちょっとだけだから」


無理矢理スプーンを奪おうとしたら、小さくため息をつかれた。

「あ〜ん」と口を開けると、スプーンに盛られたチャーハンが口に入れられる。


「美味しい〜」


私が笑みを漏らせば、流川くんは口を尖らせてお皿を自分の方に引き寄せた。


「もうあげない」


食い意地だけは一人前なんだから。


クスクスと笑うと、流川くんは首を傾げていた。



「ごちそーさま」


「食器、シンクに置いといて」


「洗うからいい」


「朝の分もあるからいいよ」


「疲れてんだろ?一緒にやっとく」


「ありがとう」


これも意外だった事の一つだが、流川くんはマメに動く。

お腹がすけば何かを作るし、散らかってれば掃除する。

家事が全般的に嫌いな私からしたら、これはとても助かっている。

流川くんに片付けを任せて私は横になる。


やっぱ疲れたなぁ。


このまま寝ちゃいたい。

ソファーに横になってしばらく目を閉じていると、ギシッという音と共に隣に気配を感じた。


「洗い物、終わった?」


コクンと頷く流川くん。


「ありがとう」


横になったままお礼を言うと、流川くんは自分の膝を叩いた。


「こっち」


「ん〜?」


口数こそ少ないが、何を言わんとしているかは分かる。


「もしかして膝枕してくれんの?」


頷く流川くん。


「じゃあ遠慮なく〜」


仰向けになって頭を流川くんの膝に乗せると、流川くんはゆっくりと私の頭を撫で始めた。


気持ちいい…。


手の平から、太ももから流川くんの温もりが伝わってくる。


ここで目を閉じたら眠っちゃうだろうな…。


流川くんはそんな思考を読んだのか、すかさず口を挟む。


「寝るなよ」


「…………寝ないって」


「…絶対ェ寝る」


「寝ないってば…」


押し問答の末、先に行動を起こしたのは流川くんだった。


唇に感じる柔らかい感触。


そして次に流川くんの口から出たのは予想外の言葉だった。


「明日から合宿行く」


「は?合宿??」


「一週間はここに来れねェ」


「相変わらず急ね」


流川くんに聞かされるのは事後報告ばかり。

始めこそ怒っていたが今はもう慣れてしまった。


「オレがいない間…」


「はいはい。禁酒しますよ」


コイツは自分のいない時に私が外でお酒を飲むのを嫌うので、一週間は禁酒になる。

どうやら酔っ払った私が人に絡むのが面白くないらしい。


「一週間かぁ〜」


吐き出したため息はアルコール恋しさか、目の前のコイツに向けてなのか私には分からなかった。


「まだ疲れてる?」


再び頭を撫でられた。


疲れてるかと聞かれたら確かに疲れてるけど、コイツにスイッチが入ったのが分かるからもう何も答えない。


「シてもいい?」


「ダメって言ったらどうすんの?」


「………諦める」


「とか言って、もう準備万端じゃない」


感じたくもない感触に呆れた後、クスクスと笑いが込み上げてきた。

流川くんはそんな私を不満げに見下ろしている。

ひとしきり笑った後は、私が流川くんを引き寄せる。

唇と唇が重なる寸前。


「私もシたくなった…」


今度は長めのキスを交わして、そのまま体制に縺れ込む。


本当はベッドがいいんだけど、って言ってももう止められないんだろうな。



『その代わり、一回で終わりだからね』


『知らねー』


『それ以上シたら疲れて死んじゃうから』


『本望だろ?』


『変態』


〜あとがき〜

拍手流川の番外編です。
成長した流川くんと先生。
というか、私がいまお疲れだから流川に頭を撫でて欲しかった…。
ちなみに流川連載の裏につきましてしばらく書きません。
そこは連載を終えてから着手しますのでご理解下さい(>_<)

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