幼なじみシリーズ
□藤真の場合
1ページ/1ページ
女は現実的だっていうけれど、女だって夢を見る。
現実から目を背けたいなら尚更。
今だってそう。
あれもこれも、数えきれないくらいの重圧が私に乗っかってきて、苦しくて、辛くて、投げ出したくて…。
少し前だったら、『もうやめた』って言って全てを放り投げていただろう。
でもそれが出来ないのは、私が大人になったという事なのか。
疲れきった身体をソファへと深く沈める。
もうこのまま寝てしまいたい……。
そう思うのに、それが出来ないのが現実。
「ただいま」
「……おかえり」
好きな人と一緒に暮らすのが幸せだと感じたのはいつ頃までだったかな。
重たい瞼を持ち上げて、ついでに身体を起こすと、健司が上着を脱いでネクタイを緩めている所だった。
「飯は?」
「今あっためる…」
共働きに近い状況に家事は分担制だけど、割当は私の方が大きく、特に料理と洗濯は私がやる事になっていた。
当然だけど、疲れていても晩御飯を作らなければいけない。
そんな事はよく分かっている。
分かっているけど、それが辛い時もある。
「疲れた…」
堪らずにぽつりと呟いた。
言ったって仕方ないって分かってたけど、それでも今がしんどくて…。
私だって人間だし愚痴を零す事はあるでしょ?
ずっとずっと愚痴とか言った事は無かったけど、今日はあまりにも疲れていて、堪らなくなって少しだけ口にしてしまった。
慰めが欲しいとか、労いが欲しいとかそんなんじゃなくて、ただ聞いて欲しかっただけ。
そしたら健司は真面目な顔でこう言った。
「じゃあ、実家に帰るか?」
「…え?」
「だってしんどいんだろ?」
健司からしたら彼なりの気遣いだったのかもしれない。
でも、その言葉は私の胸にひどく引っかかった。
実家に帰る?
実家に帰るって事は健司の側からいなくなるって事だ。
藤真の側を離れるって事は昔に戻るって事。
まだ一緒に暮らしていないあの頃…。
ほっといたらご飯なんか食べないし、仕事だって持ち帰ってきては平気な顔して朝までやってるし、それから普通に仕事に行って残業とかしてきて、そんな無茶するくせに熱が出たからって薬も飲まないし……。
そんな生活をさせたくなくて、そんな健司を見ていたくなくてここに来たんじゃなかった?
なのに、またあの頃に戻る?
冗談じゃない…!
「やっぱり今のなし!」
首を大きく横に振ってそう言うと、健司は「は?」と怪訝そうな顔をしていた。
「私、絶対に健司の側から離れないから!!」
「何言ってんだ?今さら」
「再確認してるの!」
すると、温め直した料理に手をつけていた健司の箸が止まった。
「まあ………別に離れろとは言ってねーだろ」
「…それは離れるなって事?」
「調子に乗んな」
側にいる事が当たり前で、近くに居すぎて見えなくなる。
単調な毎日の中、想う気持ちも埋もれてしまう。
遅めの夕食を口に運ぶ健司を見て幸せだと思った。
それはやっぱり今も変わらなくて、きっとこれからも同じ気持ちで…。
『つーか、離す訳ねーだろ』
『え?何か言った?』
『何でも』
〜あとがき〜
ちょっと前に藤真を書いたにも関わらず、また藤真ってのには理由があります。
相互のまいちゃんが大変そうなんで、頑張って!!ってエールのつもり………だったんですがね(笑)
まいちゃんの好きな藤真でいこうかと思ったら、藤真って励ましてくれんの?と思い、慰めにもならん感じの文章になりました。
夢ってなんだっけ??(笑)
『頑張り屋さんのアナタへ』シリーズ、慰め役の藤真は優しくないんで慰められませんでした。
藤真は自他共に厳しい人間に見えるので、甘やかす感じではなく叱咤激励タイプではないでしょうか?
試合でもお尻叩いてましたし。。。
次は甘やかしてくれそうなキャラにしますね。
.