拍手連載 先生と流川くん
□22
1ページ/1ページ
ついにこの時が来た。
授業の合間に学年主任に呼び出されて指導室に向かうと、そこには同じく呼び出されていた田中先生が先に座っていた。
呼び出され内容は、社会科準備室に『生徒』が入り浸っている事への厳重注意だった。
その『生徒』についてはその場で特定されなかったが、すぐに流川くんの事だと検討がついた。
学年主任からの通達は、今後、質問のある生徒以外の準備室への立ち入りを禁止する事。
まあ、今までがおかしかったのだから、私も田中先生もその注意に対して素直に従うつもりだった。
だが部屋を出ようとした時、私だけが呼び止められる。
嫌な予感がした。
そして田中先生に先に行ってもらって部屋に残った私は、次の瞬間頭が真っ白になってしまった。
指導室を出て人気のない廊下まで歩くと私は足を止めた。
学年主任の言った言葉が頭の中を反芻する。
『流川くんは将来性のある人間です。今ここで変な噂がたって、将来迷惑を被るのは他でもなく流川くんなんですよ』
学年主任は私と流川くんの関係を、ただの教師と生徒だとは思っていなかったようだ。
指摘されて初めて気がついたが、私は今まで何も分かっていなかった。
私だって教師と生徒が恋愛関係になることはありえない事だとは分かっていたつもりだ。
でもそれは自分の体裁とか歳の差だとかを気にしてただけで、本当の所なんて考えてもいなかった。
『貴方がもし生徒とそういう関係になるということは、この湘北高校に子供を預けているご両親の信頼を裏切る事になるのです』
学年主任の言うとおり、これは私達だけの問題ではない。
『それだけでなく湘北高校に勤務している教師達、いえ全国で働く教師達の社会的信頼をも失墜させる事にも繋がるのですよ』
どうして私は気づかなかったのだろう…。
そして何て浅はかだったのだろう…。
自分が感情を抑えてるからって、私は流川くんを真剣に突き放さなかった。
自分の感情に溺れていたんだ。
しかもそれ以前に、生徒に恋愛感情を持ってしまう程に関わりを深めてしまった。
それがいつか自分達を苦しめる事になるなんて考えもせずに…。
気がつけば涙が出ていた。
社会に出てから泣く事なんてほとんど無かったにも関わらず、涙が溢れて止まらなかった。
生徒に見られてはまずいと両手で顔を覆う。
それなのに……。
それでもその閉ざされた瞼の裏に映るのは、この期に及んで流川くんの顔だなんて未練がましい自分にゾッとした。
この気持ちは捨てなければいけない。
その日の午後、社会科準備室だけでなく全ての準備室への生徒の立ち入りが禁止された。
〜23話につづく〜
.