拍手連載 先生と流川くん

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「センセー」


「な…何?」


「また家に行っていい?」


「いいわけないでしょ!!」


きちんと告白してからと言うもの、流川くんは毎日のように準備室に来くるようになった。

その度にこの調子だから、正直言って私は困惑している。


「行きたい」


「ダメ!!」


「何で?」


「何ででも!!」


部屋に誰もいない時は、こんな会話は日常茶飯事。

その度に平然と突っぱねるのは、かなり大変だった。


自分の気持ちに気づいてからは尚更。


「なあ…」


「何よ?」


「顔…」


「顔がどうしたの?」


「顔真っ赤…」


「うそ!?」


しかも元から回りくどい言い方をするタイプじゃないので、その言葉に振り回される事は珍しくない。


ほら、今だって……。


「すげー可愛い」


「大人をからかわないの!!」


少しだけ目を細める流川くんに、ドクンッと胸が跳ねる。


認めてしまえば、今すぐにでも抱きしめる事が出来るのに。


強制的に流川くんから視線を外すのは、とっくに癖になってしまった。


真っすぐな瞳と視線が交差すれば、私の気持ちを見透かされそうな気がするから。


それが怖くて、何食わぬ顔をしながら仕事に戻る。


それしか己を守る術を知らないもの。



「センセー」


「今度は何?」


「髪の毛、何かついてる」


「え?どこ??」


視線を上げると、視界の中に流川くんを捉えてしまった。


「ほら、ここ…」


そう言って流川くんの手が私の髪に一瞬触れた。


「!?」


息が詰まりそう…。


心臓、ウルサイ…。


「取れた」


糸屑を指先につけた流川くんと視線が交差する。


合ってしまった……。


逸らせない視線に変な沈黙。


室内には二人きりという、何とも言えない空気が私を一気に襲ってくる。


俗にいうムードってヤツだ。


流されたら負けだと必死に堪えていると、流川くんはさらに追い撃ちをかけてきた。


「ねぇ」


「何?」


「オレの事好きになってよ…」


ダメだ…!


『好き』と言う言葉が喉元を通過したいって言ってる。


目の前の指に手を絡めたいって、脳みそが指令を出し始めたのだって分かってる。


でも―。


「出来るわけないじゃん。アンタは…生徒なんだから」


「ケチ」


「ケチで結構!ほら、予鈴なってるし、授業に戻りなさい!!」


「チッ…」


ガラッと扉を開けて出ていく背中を、堪らない気持ちで見送ると、私は机に突っ伏した。


危ない…


これ以上、あの瞳に見られたら決壊してしまう。


好きって気持ちが臨界点に達した時、私はどうなってしまうのだろう。


そんな事を考えるのは、きっとそれが、そう遠い日の事ではないと分かっているから―。


〜第19話につづく〜




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