拍手連載 先生と流川くん
□8
1ページ/1ページ
それを教えてくれたのは、仲良くなった女子生徒だった。
「先生聞いた〜?流川くんの彼女の話!」
「何それ?」
「体育祭の練習でね、流川くんがゼッケンつけてたんだけど、それが手縫いらしいの!」
「へえ〜」
「彼女出来たって学校中の噂だよ〜!」
学校中の噂って大袈裟な話だな…って思ってたけど、どうやらそれは嘘ではなかった。
「先生聞きました?」
またきた…。
「あの流川に彼女が出来たって!」
生徒の中だけでなく教師達の中でも、ものすごい噂になっていた。
今日だけでこれを聞かされるのは何回目だろう。
「はあ…」
気の無い返事をしていても、相手は半ば興奮しながら話しているのだから余計に面倒だ。
「学校中が騒ぎになってますよ」
何で流川くんに彼女が出来たくらいで、こんな騒ぎになるわけ?
「たかが一年のくせに…」
「え?何か??」
「いや、すごい騒ぎだからびっくりしちゃって…」
実は流川くんは、女子教員の中でも人気が高い。
相手は生徒なんだから、どうこうしようとは思っていないのだろうが、動向は気になるようで何気にチェックされている。
バスケが上手くて顔がいいだけなのに、何でそんなに騒がれるんだか…。
「流川くんは湘北のスターですからね!」
「またまた、大袈裟な」
「そんな事はないですよ!彼は全日本何とかの合宿にも参加してましたし」
「全日本!?バスケでですか!!?」
それは凄いかも…。
流川くん、実は本気ですごい人だったんだ。
全然見えないけど……。
流川くんがスターだという事は理解出来た。
だからと言って、普段の流川くんが凄いという訳では無いんだけどね。
「お、いた。噂の流川楓」
廊下を歩いている流川くんを見つけた。
その顔は明らかに不機嫌で、何だか笑えた。
「何その顔。疲れてんの?」
「知らねー奴らから色々聞かれる。うぜー」
そう言った流川くんの顔は本当に迷惑そうで、流川くんらしいなと思った。
「女子に囲まれてうぜーなんて、アンタもしかして………ホモ?」
「どあほう…」
「アハハ。冗談よ」
私が笑っていると、流川くんは大きなため息をついた。
その表情からは、本気で疲れてるんだと分かる。
確かに知らない人からジロジロと見られ、あれこれ質問されたら鬱陶しいだろう。
何か少しだけ気の毒に思えてきた。
「ねえ、そんなにウザいなら、私が縫ったって言いなよ。別に私は気にしないし」
女子の反応は多少怖いが、ごまかせばどうにかなるだろう。
だが、せっかく気を遣って言ってやったのに、流川くんは首を横に振った。
「何で?」
「めんどくせー」
私が理由を聞くと、流川くんはやる気のない声で呟く。
その口調と台詞が流川くんらしくて、私は思いっきり笑った。
「アハハ、本当にアンタらしい」
私が笑っている間、流川くんは不満そうな顔をしていた。
そして私がひとしきり笑うと流川くんはムスッとしながら言った。
「なあ」
「ん?」
「アンタって呼ぶな」
あれ?そんな事で怒るんだ。
意外だな〜。
「ああ…ゴメン、つい癖で。次から気をつけるよ、流川くん」
私が素直に謝ると、流川くんはムスッとしながらその場を立ち去った。
そんなに怒る事ないじゃない。
アンタって呼ばれるのが嫌だなんて…。
でも、先にそう呼んだのは流川くんなのにね。
流川くんの噂はしばらく続いた。
でも結局、誰がゼッケンを縫ったのかは推測に留まり、体育祭当日を迎える事になった。
〜第9話につづく〜
.