拍手連載 先生と流川くん

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それを教えてくれたのは、仲良くなった女子生徒だった。


「先生聞いた〜?流川くんの彼女の話!」


「何それ?」


「体育祭の練習でね、流川くんがゼッケンつけてたんだけど、それが手縫いらしいの!」


「へえ〜」


「彼女出来たって学校中の噂だよ〜!」


学校中の噂って大袈裟な話だな…って思ってたけど、どうやらそれは嘘ではなかった。


「先生聞きました?」


またきた…。


「あの流川に彼女が出来たって!」


生徒の中だけでなく教師達の中でも、ものすごい噂になっていた。

今日だけでこれを聞かされるのは何回目だろう。


「はあ…」


気の無い返事をしていても、相手は半ば興奮しながら話しているのだから余計に面倒だ。


「学校中が騒ぎになってますよ」


何で流川くんに彼女が出来たくらいで、こんな騒ぎになるわけ?


「たかが一年のくせに…」


「え?何か??」


「いや、すごい騒ぎだからびっくりしちゃって…」


実は流川くんは、女子教員の中でも人気が高い。

相手は生徒なんだから、どうこうしようとは思っていないのだろうが、動向は気になるようで何気にチェックされている。


バスケが上手くて顔がいいだけなのに、何でそんなに騒がれるんだか…。


「流川くんは湘北のスターですからね!」


「またまた、大袈裟な」


「そんな事はないですよ!彼は全日本何とかの合宿にも参加してましたし」


「全日本!?バスケでですか!!?」


それは凄いかも…。


流川くん、実は本気ですごい人だったんだ。


全然見えないけど……。


流川くんがスターだという事は理解出来た。

だからと言って、普段の流川くんが凄いという訳では無いんだけどね。


「お、いた。噂の流川楓」


廊下を歩いている流川くんを見つけた。

その顔は明らかに不機嫌で、何だか笑えた。


「何その顔。疲れてんの?」


「知らねー奴らから色々聞かれる。うぜー」


そう言った流川くんの顔は本当に迷惑そうで、流川くんらしいなと思った。


「女子に囲まれてうぜーなんて、アンタもしかして………ホモ?」


「どあほう…」


「アハハ。冗談よ」


私が笑っていると、流川くんは大きなため息をついた。

その表情からは、本気で疲れてるんだと分かる。

確かに知らない人からジロジロと見られ、あれこれ質問されたら鬱陶しいだろう。

何か少しだけ気の毒に思えてきた。


「ねえ、そんなにウザいなら、私が縫ったって言いなよ。別に私は気にしないし」


女子の反応は多少怖いが、ごまかせばどうにかなるだろう。

だが、せっかく気を遣って言ってやったのに、流川くんは首を横に振った。


「何で?」


「めんどくせー」


私が理由を聞くと、流川くんはやる気のない声で呟く。

その口調と台詞が流川くんらしくて、私は思いっきり笑った。


「アハハ、本当にアンタらしい」


私が笑っている間、流川くんは不満そうな顔をしていた。

そして私がひとしきり笑うと流川くんはムスッとしながら言った。


「なあ」


「ん?」


「アンタって呼ぶな」


あれ?そんな事で怒るんだ。


意外だな〜。


「ああ…ゴメン、つい癖で。次から気をつけるよ、流川くん」


私が素直に謝ると、流川くんはムスッとしながらその場を立ち去った。


そんなに怒る事ないじゃない。


アンタって呼ばれるのが嫌だなんて…。


でも、先にそう呼んだのは流川くんなのにね。



流川くんの噂はしばらく続いた。

でも結局、誰がゼッケンを縫ったのかは推測に留まり、体育祭当日を迎える事になった。



〜第9話につづく〜




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