拍手連載 先生と流川くん

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思いのほか高校の教師は大変だった。

私は一年生を受け持つ事になったのだが、これがなかなか難しい。

まず、この学校にはいくつかの不良グループがいて、どうやら一年の中にもそんな不良グループが存在するらしい。

よく見ると、金髪やら赤髪、さらにリーゼントの目つきが良くない男の子達が混じっていた。

しかも赤髪はバスケ部の部員だし!

これに関しては、始めは怖いな…と思っていたが、特に問題行動もなく普通に授業に出ている。

人は見た目によらないと、あらゆる場面で遭遇したが、今回もそのパターンの様だ。


慣れて来ると何人かの名前を覚えた。

教師が名前を覚える順番は、とても分かりやすいものだ。

珍しい名前の人、よく質問をしてくる人、そして問題行動を繰り返す人。

その中で、最近私を悩ませているのは特にアイツ。


1年7組の流川楓


初日に私が名前を読めなかったアイツだ。

当日は気づかなかったが、次の授業の時に気づいた。

そう。流川くんはバスケ部のモテ男!

だがこの男、毎回の様に眠っていて呼んだ所で起きやしない。

しかも周りの生徒も起こそうとしないし、しまいには止めた方がいいのに…という視線を投げ掛けられる。

今日という今日は、という気持ちで流川くんを注意したのだが。

しかし、それが失敗だった。


「流川くん、起きなさい」


やっぱり優しく言っても駄目。

女だからってナメられてるのかしら。


だったら…。


「こら!流川!!」


思い切ってノートで頭を叩いてみる。

体罰だろうがなんだろうが、授業を聞かないコイツが悪い!

そんな気持ちで、結構強く頭をひっぱたいた。

さすがに流川くんは起き上がった。


ようやく通じた…。


そう思って安心していたのに。


「何人たりともオレの眠りを妨げる者は許さん…」


立ち上がった流川くんは、眼光鋭く私を睨みつけた。


「え?」


「まずい!!流川が寝ぼけてる!!!」


周りにいた生徒達が立ち上がり、慌てて流川くんを抑えにかかった。


何これ??学級崩壊!?


訳がわからず立ち尽くす私に、止めている男子は必死だ。


「もう!先生、何も知らないの!?」


一人の女子生徒が呆れた顔で私を見る。


「流川くんを起こすと、寝ぼけて暴れるから止めるの大変なんだよ!!」


そんなの知るか〜!!

ってか、生徒が暴れるからって放置したら、そっちの方が問題だぞ!?

とは思うものの、さすがに暴れている高校男子を目の前に、何かを出来る私でもない。

その場は男子達に任せて、私は見守る事にした。

誰も眠っている流川くんを起こさなかったのも、今ならわかる気がする。


しかし、寝ぼけるほど寝るなんて…。

私の授業ってそんなに駄目?


騒ぎが収まると流川くんも目覚めたらしく、辺りをキョロキョロ見渡した。

私はため息をついて一安心。

怪我人が出なくてよかった。

とは言っても、すでに授業の半分は終わってしまい、迷惑をかけられた事実は変わらない。

気が乗らないが、流川くんにも反省してもらう事に決めた。


「流川くん。昼休みに社会科準備室に来なさい」


流川くんは目をシパシパさせながら、私を見つめていた。


コイツ…本当にわかってんのか!?


その後、授業の遅れを取り戻すべく、私は授業を再開した。




昼休み。


「……」


流川は社会科準備室の中で立ち尽くしていた。

見つめる視線の先には、最近、臨時で来た社会科教師の姿。

何のために呼ばれたかすら分からずにやって来た流川だが、いま自分の立たされた状況にますます困惑していた。

帰ろうかとも考えた。

しかし、呼ばれたからには帰る訳にいかず、どうしたものかと立ち尽くす。

だって呼び付けた張本人が、机に臥せて寝ているのだから。


「…センセー」


とりあえず呼んでみる。

だが、全く動く気配はない。

はあっとため息をついて、次は肩を揺する。

ピクっと身体が反応すると、ようやく身体を起こした。


「はっ…」


半分寝ぼけて自分を見つめる若い教師。


「呼んどいて寝るな」


流川は呆れたように呟いた。



ヤバい!

いつの間にか寝てた!!


私が目を覚ますと、既に流川くんが目の前に立っていた。

連日、予習やら名簿を覚える事で寝不足だったので、つい眠ってしまったのだ。

案の定、流川くんは無愛想な顔で私を見つめている。


「ゴメン…」


とりあえず謝ってみる。
でも………。


「私が謝るのおかしくない?」


「当たり前」


私が自分で突っ込むと、流川くんは上から私を見下ろして冷ややかに答える。


何だ!この生意気男は!!

あまりのオレ様加減に、さすがの私もキレた。


「じゃあ、アナタが寝るのは悪くない訳!?」


「眠いから仕方ない」


「眠いからって…人が必死に予習して授業組んでるのに寝るのは失礼でしょ!!」


「関係ねー。アンタだって寝てた」


「アンタ!?仮にも私は先生よ!!?そりゃ、まだ新米だし、ナメられてもしょーがないかもだけど?」


「わかってんじゃん。もう帰ってもいい?」


こんにゃろ〜〜!!

でも、私には秘策があるのよ。

流川くんが問題児なのは既に調査済み。

だから予めリサーチして、流川くんの弱みを探ったのだ。


「アナタがそんな口叩けるのも今のうちなんだからね」


不敵に笑う私に、流川くんは顔をしかめる。


「あんまり態度が悪いと、安西先生にチクって練習させないわよ」


フッ…言ってやったわ。

流川くんはバスケ部に所属している。

ということは、安西先生
の言うことには服従するはずだ。


フッフッフッ…私も悪い女よね。


勝手に満足してニヤニヤしていたら、流川くんが本日数回目のため息をついた。


「子供…」


「何だってぇ!?」


「自分の力でなんとかしろ…」


「う…」


痛い所をつかれてしまった。

言われてみたら、確かにそうなのよね。

授業が退屈なのはわかっていた。

日本史だからって、始めから楽しくするの諦めてたし。

私も少し反省した。


「ゴメンね、確かに私も悪いかも。でもね、授業中にアンタみたいに安らかに寝られると、さすがに私もへこむのよ」


私は素直に告白した。

また馬鹿にされるかな、って思ったら全く検討もしてなかった返事が返ってくる。


「アンタじゃねー」


「え?」


「流川楓…」


「あ、ああ。流川くんね」


流川くんはコクリと頷いた。


「次は少し授業も聞く」


「え?」


「でもツマンナかったら寝る」


それって、私を試すって事??

生意気な発言なんだけど、反省した私は素直にそれを受けた。


「わかった。頑張る…」


それを聞いた流川くんはコクリと頷いた。


「腹減った。もう帰ってもいい?」


「ああ、ゴメン」


流川くんは何も言わずに、準備室を出て行った。


どっちが先生かわかんなかったじゃん…。


流川くんが去ったあと、私は改めてノートを開いた。

当たり前の言葉の羅列。

これではつまらなくても仕方ない。


もう一回、頑張るか!


その日の授業を終えたにも関わらず、私は残り時間を次のノート作成に全力を注いだ。


絶対に流川くんを眠らせないんだから!!



〜第3話に続く〜




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