仙道連載
□3
1ページ/1ページ
とりあえず現状を受け入れた私は早速行動に移す事にした。
まずは身辺調査から。
ご丁寧にも机に置かれた生徒手帳や学校の資料を見て、昨日までの自分に感謝する。
確かにそれらには「陵南高校」と書かれてあり、通うべき学校は間違いない。
さらにクローゼットを物色。
まだ自分の物って気もしないから家捜ししてる気分だけど、そんな事をどうこう言っている場合でもないだろう。
結果、制服の他にも着替えはそれなりに用意されていて、当面の生活に困るような事はなさそうだ。
あとはお金の問題だが、これに関しては学生だから仕送りもされるだろうし稼ぐ必要もないはずだ。
それだけが唯一の救いといえるか…。
一息ついて冷蔵庫を開けたものの目的のものは無かった。
というか何も入っていない。
気が利かないなぁ…と思いながらサイフを持って外に出た私は、探索がてら近所を歩く事にした。
外に出ると湿った空気と潮の香が鼻孔をくすぐる。
きっと海が近いのだろう。
周囲には同じようなマンションが並び、所々に小さなお店がある。
住み慣れた都会の街とは程遠いがこういうのも嫌いではない。
とりあえずコンビニを探しながら私は歩き始めた。
歩きながら考える。
私をここに連れて来た人は、一体この世界の何を救えというのか…。
見た所、ここは日本に変わりないように見える。
ただ違うのは恐らく本の中の世界というだけ。
それに、よりによってなぜ陵南なのだろう。
あの本の主役は湘北のはずなのに……。
もしかして湘北を全国制覇させるのが目的?
そのために仙道や魚住に一服盛ってこいって事?
いや、そんな事しなくても湘北は陵南に勝ってたし、一服盛る相手なら陵南よりも海南だろう。
それ以前に、そんな事で全国制覇を成し遂げた所で彼らが喜ぶはずがない。
じゃあ一体何が目的?
考えれば考えるほど分からなくなった。
設定からしても謎を解く鍵は仙道なんだろうとは思うのだが、私自身が仙道彰についてよく知らないので思い当たる事もない。
彼に関する情報は陵南のエースだって事と流川のライバルだって事。
こんな事になるのなら、もう少しきちんと読んでおけば良かった。
だが、実際の所は何度読み返した所でそれ以上の情報はない。
メインが湘北だっただけに、むしろライバルの流川に関する情報が手に入るくらいだ。
まさに八方塞がり。
ただ、この状況で唯一の楽しみがあるとするならば、他のキャラクターにも会える可能性があるという事だろう。
私はどちらかと言えば海南や翔陽のキャプテンが好きだし、運が良ければ会えるかもしれない。
それに陵南に関してなら魚住のボスザルっぷりも楽しみだ。
それを考えると少しだけワクワクした。
まあ、本の中に飛ばされた代償としてはささやかな楽しみだが、それくらいの楽しみがないと張り合いも無いってものだ。
考えながら歩いている内に何となく近所は把握した。
ついでにコンビニも見つけた。
私は早速コンビニに入り、ビールとツマミを片手にレジへと向かう。
とりあえず飲まなきゃやってらんないよね。
そう思ってレジに並んだのに……。
「身分証を提示いただけますか?」
「はい?」
早速一つ目の困難な壁にぶち当たり、早々にめげそうになった事は言うまでもない。
『やっぱり高校生設定にしたヤツ、許さない!!』
〜第4話につづく〜
.