拍手連載 先生と流川くん

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「い……いつからいたの!?」


「始めからいたぜ?」


水戸くんの応えと共に、ギャハハと笑う4人。


やっぱり完璧にナメられてる。


「こういう天気のいい日はよく来てんだよ」


「ふーん」


水戸くんの言葉に頷きながらも、視線を流川くんに向ける。


本当によく寝るヤツだ。


気持ち良さそうな顔で、規則正しく呼吸をする流川くんを見るのは珍しい事ではない。


だからって屋上で寝なくても…。


呆れて何も言えなかった。

すると何を思ったのか、高宮くんが大声で叫んだ。


「おい、流川〜。オモイビトが来てるぜ〜」


「ちょっと!そういう言い方はしないでよ」


再びギャハハと笑い声が沸き上がる。

水戸くんも一緒に笑っていて、こういう所は高校生らしい。


「流川くん、すごく寝起き悪いんだから…」


以前、流川くんを無理矢理起こして大変な事になったのを思い出した。


あんな事になるのは二度とゴメンだ。


それなのに笑うのを止めない4人。

すると彼らの背後に急に影が落ちた。

それは流川くんの影だった。

いきなり身体を起こした流川くんは、ぼーっとこっちを見ている。


「ほら!起きちゃったじゃない!!」


私が4人を睨みつけると、4人は面白そうに流川くんを見ている。

当の流川くんは、まだ状況を把握していないのか、首をわずかに傾けたまま、立ち尽くす私を見上げていた。


「お…はよ?」


寝ぼけていないかを確認するように、恐る恐る声をかける。

すると流川くんは、じっと私を見た後に、少し目を細めた。

心なしか、口端が上がっているような気がする。


え…?


もしかして笑ってる??


いつもと違う表情の流川くんに見とれていると、何を思ったのか流川くんが座ったまま両手を広げた。


「な…何?」


「ね……こっち来て」


「え!?」


何を言われたか理解出来なかった。

すると流川くんは、指先をちょいちょいと動かした。

その仕種の意図を理解した私の顔は、段々と熱くなる。


絶対寝ぼけてる!!


でも………。


その顔は反則だ…。


熱くなる身体を抑えるように、グッと拳に力を込めた瞬間、いきなりどっと笑い声が響き渡った。


「わっはっはっはっ」


「………?」


「これはマジだな!」


「すげーもん見た!!」


流川があんな顔するなんてよ〜、と笑い転げる4人を見て冷静さを取り戻す。

すると急に恥ずかしくなってきた。


「アンタ達………」


まるで照れ隠しをするように、私は文字通り腹を抱えて笑う4人に的を絞る。


「全員縛り上げるわよ!!」


「やべっ、逃げろ!!」


4人は慌てて立ち上がると、笑いながら屋上を後にする。

そして取り残された私達二人。


「まったく…逃げ足は速いんだから」


私は悪態をついたものの、背中に突き刺さる視線を痛いほど感じていた。


二人きりになるつもりなんて無かったのに…。


何か会話の糸口を見つけようと、何となく口にしたのは、先ほど水戸くんから聞いた話だった。


「アンタ、桜木くんとケンカするんだって?」


振り返ると、眉をひそめた流川くん。


「あの子達に聞いたのよ。桜木くんのパンチくらっても倒れないって」


「アイツが絡んでくるだけだ」


「それでもケンカは良くないわよ。出場停止になっても知らないから」


すると、流川くんはしばらく黙り込んだ。


もしや、初めてお説教が効いたのか?


淡い期待を胸に抱き、ようやく教師らしい事が出来たと思ったのも束の間。


「アンタがそう言うならもうしない」


流川くんの視線は真っ直ぐに私の目を射抜いた。

その真剣な眼差しに、私は視線が逸らせない。

ドキドキと心拍数が上がり、視線の怖さをやけに感じた。


「…絶対だからね」


やっとの事で振り絞った言葉に、流川くんはコクリと頷いた。

同時に授業の終わりのチャイムが鳴り響く。


「…次の授業は絶対に出なさいよ」


私はそれだけ言うと、再び流川くんに背を向けた。


『アンタがそう言うなら…』


そんな言葉に特別を感じるなんて。

そんなピュアな感情が自分の中に残っている事を知り、思わず自嘲気味に笑った。



〜21話につづく〜



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