幼なじみシリーズ

□その場足踏み
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夏、夏、夏!!



とうとうこの日がやってきました!



そうです!



池上さんと海なのです!



海って言えばロマンスの宝庫…。




『キレイな夕日ですね〜』



『そうだな』



『どうしたんですか?さっきからコッチばかり見て…』



『いや、夕日よりもお前の方がキレイだなって………』



『池上さん……』








な〜んて、それからそのままアハハでウフフみたいな……









………。








本当ならそんなはずだったのに…。







まさかここに来て……






ここまで来て……








なぜに雨!!?






二ヶ月前はあれだけ降って欲しかった雨なのに、今になってこの土砂降りが恨めしい。

空を見上げては大きな溜め息をつくと、池上さんの視線を感じた。


「そう落ち込むなよ。別に誰が悪い訳でもないんだから」



「そうなんですけどね……」




それでも私はずっと楽しみにしてたんですよ。


それなのに雨が降るなんて…………。




神様のバカヤロウ!!





怒りのあまり、プルプルと震えていると池上さんにポンと頭を叩かれた。


「まァ、落ち着けよ」


池上さんは苦笑してたけど、私ほど残念がっている様子はない。

それが余計に悲しくて、自分一人が空回りしてる気になってくる。

手を繋いだり、時々その………ちゅうをしたりするけれど、それを考えたら前よりずっと近づいたんだと思う。


それでももっと近くにいたい、池上さんの近くに行きたいと思うのは変なのかな?



駅の構内に設置された観光案内を見ている池上さんの後ろ姿を見つめながら、やけに切ない気持ちになってしまった。















数時間後……。











「いやぁ〜、めっちゃ楽しかったですね!!」


満腹のお腹を摩りながらレストランを後にする私達。


あれから結局、雨は止まなかった。

仕方なしに向かったのは地元の水族館。

最初は乗り気じゃなかったけど、池上さんとデートらしい場所でデートをした事がない私にとっては貴重な体験だった。



何より暗闇に乗じて池上さんったらあんな事……………。



と、まぁ、思い出すだけでニヤニヤしてしまうのくらい本当に楽しかった。

海に入れなかったのは心残りだけど、それだけが目的だったわけではないし。



いそいそとホテルにチェックインすると、部屋へと向かった。



海は本当に残念だった。

でも、旅行はここで終わりじゃない。


言うなれば、海は余興。


ここからが本番と言っても過言ではないのです!


緊張はするけれど、二人の愛を深める大チャンスだし…。


とりあえずさりげなくシャワーでも……と荷物を漁ってみた私だが、ある異変に気づいた。


「どうした?」


「いや、ちょっと…」


改めてガサガサしてみるが、やはり目的のものが見つからない。


「忘れ物か?」


池上さんが気にしてくれているんだけど、今はそれどころではない。


ない…


ない……


ないっ!!


「先にシャワー借りるぞ」


決死の形相の私を残して池上さんはさっさとお風呂に行ってしまった。

そのすきに文字通り荷物をひっくり返してみると、バッグの底からパサリと布が落ちてきた。



…………ブタ?



それは『お前には10年早い』と、殴り書きされたメモのくっついた色気ゼロの下着。

そしてその筆跡は明らかに兄貴のモノだった。



アイツ、コロシテヤル……。



池上さんと待ち合わせるのに都合がいいからって、兄貴の部屋に泊まったのが間違いだった。

一夜にして勝負下着がブタさんパンツにすり替わってしまったではないか。

ぐしゃっとパンツを握りしめながらも、出て来るのは兄貴を呪う言葉ばかり。

当然ながら池上さんがシャワーを終えた事にすら気づくわけもなく、おかげで貴重な風呂上がりの池上さんを見のがしてしまった。


もう最悪……。


まあ、でも前髪をおろした池上さんは可愛いし、それを見れただけでも私は死ねるんだけどね!


って、死んだらダメじゃん!


むしろ死ぬのはベッドの上!!


だいたいベッドに入ったら下着なんて関係ないし!


ノープロブレム、ノープロブレム


気を取り直してシャワーを浴びに行った。

身体はいつもより丁寧に洗って、歯磨きも済ませて、ムダ毛もチェックして準備は万全!

バスタオルを身体に巻き付けて、いざ出陣!!









って…………おいおい。










シャワーを終えると、池上さんは既に眠っていた。



何それ……。



めくるめく官能の世界は?



アハハでウフフな世界はどこへ…………?



つか、お休みのキスもなしですか??




へなへなと腰が抜けて行くのがわかる。

せっかく練ってきたプランは見事に音を立てて崩れていったのだ。


「何よ、それ………」


悔しいような、泣きたいような。

でも少し、ホッとしているような……。



池上さんのたてる寝息に引かれてベッドサイドへ歩み寄ってみる。

布団もかけずに眠ってしまった所からすると、よほど疲れていたのだろうか。

思い起こせば、受験勉強の合間に時間を作ってくれての旅行だった。

それでも朝早くからつき合ってくれた。


疲れて当たり前だよね…。


「…ありがとうございます」


規則正しい寝息をたてる池上さん。


「池上さん、大好きです…」


おろした前髪の隙間から見える額にキスをすると、着替えるために再びバスルームへと戻った。




まあ、結果としては収穫なし。


だけどこうして池上さんと二人きりで一夜を過ごす事は出来た。


ひとつ前進と言いたいところだけど、今日のところは足踏みって事で。


空いてるベッドに横たわって目を閉じる。


次はせめてお休みのちゅうくらいは、と意気込みながら次第に眠りに落ちて行くのであった。



もちろんその時の私は、池上さんが狸寝入りしてたなんて気づくはずもない。







『お前、朝からよく食うな』


『旅行は帰るまでが旅行ですからね!いつ何時に体力を消耗するかわからないですもん』


まだまだ諦めてません!









〜あとがき〜

ヒロイン独白です。

久しぶりに書きましたが難産でしたね〜。

難産のわりには面白くないし。。。

ちなみに池上氏、ヒロインさんに手を出しませんでした。

はて、なぜでしょう?

そこの所はまた別の機会に書くとして、そろそろ仙道ファミリーにご登場いただきたい。


クリスマスイヴに真夏の話ですみません(>_<)

次は9月の池上さんでお会いしませう〜





 

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