幼なじみシリーズ

□punishment
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彼氏に振られた。

大学生活の半分は一緒に過ごした相手だっただけに、ダメージはそれなり。

しかも理由がまた身に堪えるもので、後悔しても過ぎた日は今さら戻って来ない。

こんな時は友達と飲むのが一番。

そう思って気の許せる女友達と飲みに繰り出したけど、全く酔えない。

身体は熱いのに心だけが寒い。

酔えないままたくさん飲んで、友達と別れた後に一人歩いていたら急に気分が悪くなってきた。

今さら酔いが回るなんて最悪だけど、あんな無茶飲みをして回らない方がおかしい。

成り振り構わず歩道脇にフラフラ寄って座り込んでいると、突然声を掛けられた。

たぶん、「大丈夫?」とかありきたりな言葉。

そこからは、よくあるパターンで介抱される事を名目に部屋まで送ってもらう。

全く知らない人に部屋バレはマズいって分かってたけど、この時はどうでもいいって思っちゃったんだ。






馬鹿…







バカ、バカ……










軽はずみな事をしたって分かってる。

こんな事したら後悔するって事も分かってる。

でも、差し出された手が思いのほか温かくて、掛けられた言葉が胸に染みて……。








そして案の定、後悔してる自分がいる。










「お腹すいた…」


「もうすぐ昼だからな」


「何か食べる?」


「作ってくれるの?」


「大したモノは作れないけど…」


脱ぎ散らかした服はベッドに投げて、部屋着に着替えてキッチンに向かう。


確か冷凍ご飯があったはずだ。


二人分にしては少ないかな、と呟きながら今度は卵を取り出していると後ろに気配を感じた。


「それ、料理って言えるの?」


私が手にしているのは、いわゆる炒飯の元と呼ばれているモノだった。


料理らしい料理なんて作った事はないし、作ろうとした事もない。

こんなんだからフラれたんだけど、今それを思い出すにはあまりにイタ過ぎる。

突然、パタンと冷蔵庫を開ける音がした。


「お、ベーコン見っけ。玉葱もあるじゃん」


「ちょっと…」


「貸してみ」



トントントン……



多少は粗っぽいながらも材料を手際良く刻んでいく手元を見つめる。

会って間もない、名前も知らない人間なのに、そんな人間が我が家の台所で炒飯を作っている。

酔った私を介抱してくれて、さっきまで一緒に寝ていて、今度はお昼ご飯を作ってくれて。


何とも言えない不思議な感覚だった。


炒飯は普通に美味しくて、二人分には少なかったご飯も、投入された具のおかげでちょうど良くなっていた。


「ありがとう……」


帰り際に言った台詞。


「こちらこそ」


扉が閉まって数分間、さっきまでの出来事がフラッシュバックしていた。




バカだな…。




本当にバカ……。






名前くらい聞けば良かった…。






どうして私は学習しないんだろう。









後悔したって手遅れなのに…。










偶然と必然があるなら、あの出会いは必然だったのかもしれない。



「また会ったな」



こんな所で再び会うなんて、喜ぶべき事なのかは分からない。


「何で…?」


「だってオレ、ここの生徒だから」


別に教師になりたいわけでもなかったのに、何と無く受けていた教職課程。

教育実習先で帰ってきた母校で、その生徒の中に知った顔を見つけて思わず目を見開いた。


「もしかして、あの時のコト後悔してる?」






後悔………?







ずっと後悔してた。










「…っ…………会いたかった」





あの日の事を考えない日なんて一度だって無かった。


でも、どこの誰かも何をしているのかも分からない。


探したくても探せない。




会いたくて、会いたくて……。



苦しくて堪らなかった。




「センセーと生徒じゃ色々ヤバいんじゃない?」


伸ばしかけた手を思わず留める。

確かに彼の言う通り。

いや、それ以前に自分に彼を求める資格があるのだろうか?



せっかく会えたのに…。



過去の自分の愚かさを、浅はかだった己の過ちを思い返すだけで吐きそうだ。


力無く腕が落ちる。








え………?






「………っ……」



腕に、背中に、何より泣きそうだった顔が急に温もりに包まれた。


「うそ」


耳元に響く声が近過ぎて、眩暈を起こしそうだ。


「アンタほっといたらろくなモン食わないからな」


ゆっくりと顔を起こして視界を広げると、フワリと笑顔がかち合った。


「それに知らない男を平気で部屋に上げちまうし。そっちの方が心配だ」


絡み合う視線の中、その距離が狭まってくる。

倣って目を閉じようとしたけれど、「あ…」と思わず声を漏らした。


「何?」


額と額をわざとコツンとくっつけて、眉を下げて笑う彼にどうしても聞きたい事がある。


「名前……」



もう後悔しないように。



離れてしまっても今度は探せるように。



「よーへー」





ようへい…。





「水戸洋平」






水戸洋平……。







「洋平…」


「はいはい、何かご用ですか?」


「もう、いなくならないで…」


「了解しました」



洋平のふんわりとした笑顔が胸に染みる。



「洋平…」


「今度は何ですか?」



伸ばした腕を首に回すと、数センチだった距離を一気に縮めてゼロにした。





『好き……』




『オレも…』









〜あとがき〜


本当は3話くらいに分けて書きたかったんです。

しかし、今は勢いがあるみたいなんで短縮して一気に結末までいきました。

おかげで裏な場面はカット←書くつもりはありませんが…

お互いを好きになる場面もカット(笑)

なんじゃこりゃです。

補足は特にありませんが、洋平はナンパしたわけではなく行き倒れを拾っただけです。

で、行き倒れが心に傷負いだと分かってほっとけなくなったのでしょうね。

洋平はいい人ですから。

淡々と流れるような文章が書きたいんで、こういう構成になりましたが物足りなく感じた方には申し訳ありません。

長々しいのを書く時間がないので、しばらくはこんな感じになりそうです。

また感想などあれば拍手からお願いします!


タイトル?

あんまり意味は考えてません(笑)

ただ、会いたくて会えないのは刑罰みたいだなって…









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