ショート夢(SD)

□流川の場合
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「一体何考えてんの!!」


部屋に響くのは恋人同士が語らうような独特の甘さを含んだ声でもなく、また友達同士が談笑するような楽しげな声でもない。

誰が聞いても間違いなく怒りに満ちているとわかるのに、その声は華麗にスルーされて思わずテーブルを蹴飛ばしそうになるのを全身で堪えた。


「ねぇ…」


「…」


「ちょっと…」


「…」


「あのさ…」


「…」


こんなやり取りは今回に限ったことじゃない。

バスケ以外の事となると完全にやる気のない流川だから、喧嘩なんてしょっちゅうの事。

先々週だって約束してた時間とか場所とかをすっかり忘れてて、こっちが連絡するまで公園でバスケやってたし、先週も同じようなものだった。

そして今日は明日合宿行くから、とかいきなり言い出すし。

結局、私の事は二の次でどうでもいいとか思ってるに違いないのだ。

そして何より腹が立つのは、そんな流川に惚れてしまった事。

おかげでこの瞬間にもヤツが私の事を少しでも考えてくれて、悪かったとか思ってくれることをホンの少しでも期待してしまう自分がいる。

だけど現実は現実だし、流川は少女漫画に出てくるようなエスパーな男ではない。

私の気持ちなんて一つたりとも理解するはずもなく…。


「ちょっと聞いてる?」


「…」


「ねェ…………」


「・・・」


ってコイツ・・・・・。


「寝るな!!!」


所詮はこんなモンなのだ。


ペシっと頭を叩かれてようやく私を見上げた流川だが、さする頭からはクエスチョンマークが浮き出ている。


「あのさ、ちょっとは今の状況理解してる?」


脱力しかけた肩を張ってそう問いかけてみたものの、その対象に首を傾げられてしまえば体中から力が抜けてしまいそうになった。
 

「もういい…」


私にだって沸点はあるし限界もある。

このまま想い続けても一生一方通行のままな気がする。

これ以上、期待しても無理。



だったらいっそのこと…・



「もう無理、別れよう」


これは夢だったんだ。

片思いしてた時の自分が思い描いた夢。

その割には全然甘くもなくて、苦い思いばかりで夢のくせにって笑えてきちゃうけど。


「…何してんだ?」


帰り支度を始めた背中にやっと声がかかる。

わずかに胸の奥が疼いたけど、絶対にありえないからって脳が指令を出してきて、その手を緩めて振り返る事はしない。


「帰るに決まってるでしょ」


「ふーん」


ほら…。

自分の学習能力を心の中で讃えてみたけど、そんなの全然嬉しくない。

面倒なことになる前に部屋を出ようと立ち上がって扉に手をかけて、目は閉じないようにドアを見つめる。


「じゃあね…」


それだけ言うのが精一杯だった。



まだ目は閉じない。



せめてドアから一歩踏み出すまで。



そしたら全力で走ろう。



たぶん近くにトイレとかあるし、無ければそのまま走って人気のない所に行けばいい。

そこなら誰も見てないから思いっきり泣いたって恥ずかしくもないはず。


だけど扉は開かなかった。


「な…に?」


ドアノブにかけられた手は大きな手に包まれていて、びっくりした拍子に目を閉じたからパタパタと絨毯に小さなシミが広がった。


「来週、忘れんな」


「え…?」


「合宿終わったら連絡するから」


それだけ言い終わるとすっと視界から手が消えた。


「ちょっと待って、来週って…」


その手を追うように振り返るとベッドに向かう背中しか無かったけど、返事はちゃんと返ってきた。


「誕生日…」


うそ…。


「来週?」


いやいや…最後のクエスチョンマークは何?


思わず突っ込んでしまいそうになったけど、それ以上にびっくりしたやら驚いたやらの方が優ってしまい。


そしてそれを大幅に超えて嬉しいって気持ちが溢れて止まらなくてまた瞬きができない状態になってしまった。


「帰るんじゃねーの?」


ただただドアの前に立ち尽くしているばかりの私に流川が視線を投げかける。


そうだった、と思ったんだけどこのまま帰ったらさっき言った言葉は実行されてしまうのだろうか?


今更さっきの言葉を取り消したいっていうのはダメだろうか??


何にも言わずにフリーズしている私の耳にため息だけが聞こえた。


「こっち…」


「…」


ベッドをポンポンと叩いているその口元が僅かに上がっている気がする。

いいのかな?って半信半疑でベッドに近づくと何故かそのまま腕の中に引き込まれてしまった。


「あの…苦しいんだけど」


「るせー」


「あのさ、」


「しゃべんな」


ふぁ、とあくびが聞こえてきたんだけど、やっぱり寝るんだ。


「ねぇ、でも…」


そう言いかけたら軽く睨まれたけど、だけどこれだけは言ってしまいたい。


「さっきの言葉取り消させて?」


「さっきの?」


「別れる、とか何とか言っちゃったヤツ…」









・・・・・・・・・。










それから返事は返って来なかった。








もしかして寝ちゃったのか?と振り返ると、予想外に目があった。


「起きてたの?」


「目が冴えた」


「珍しいね、いつもは3秒くらいで寝ちゃうのに」


「………お前が変な事言うからだ」


「変なこと?」


「二度と言うな」


お腹に絡まった腕に力が入る。


どうやら一方通行だというのは私の思い過ごしらしい。


「わかった。もう言わない」


お返しみたいにギュッと流川の腕に腕を絡ませると二人の距離がピッタリくっついた。

ほどなくして寝息が聞こえてきて、私もそれにならうようにして目を閉じた。






後日…


『ちょっと…』


『何?』


『今日は何の日か知ってる?』


『…………………誕生日?』


『おい!!』








〜あとがき〜

久しぶりの更新となりました。

本当に久々に書いたんでリハビリ感覚で短いものにしました。

何か面白くも何ともないんですがね、書きたいものを書いたって感じです。

ちなみにこれはシリーズですので、また誰かに「別れてやる」的な言葉を言わせてみます。

ルカワに別れを宣言してみたヒロインですが、ルカワの反応って興味ありますよね。

すがるような事はしないだろうし、去るもの拒まず?なのかもしれません。

でも今回はあえて無かった事にしたようです(笑)

たぶんルカワの頭の中の言語解釈装置はたまに停止するんだと思います。


しかしやっぱりパソコンで書くのが一番ですね。

あ、感想とかあったらまた拍手からで結構ですのでください。










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