ショート夢(SD)

□おにぎりとポテチ
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屋上の階段を駆け上がり、扉の前で一息つく。

荒い呼吸がおさまったのを確認すると、扉を一気に開いた。

するとそこには思った通りの人物がいて、私は彼にわからないようにほっとため息をついた。


「教室にいないと思ったら、こんな所にいたんだ」


「何だ、お前か」


藤真はチラリと私を振り返ると、何事も無かったかのようにまた視線を戻した。


「私で良かったくせに。王子様が屋上でそんなモン食べてるなんてイメージダウンじゃない?」


「うっせー」


藤真の左手を占めているのは、ポテト○ップスのうすしお味。

藤真はパリパリと耳障りのいい音を立てながら、それを口に運んでいた。


「意外」


「何が?」


「男はコンソメって感じなのに」


「匂いが残るだろ」


「そこは気使うんだ」


私は扉を閉めると、藤真の隣に腰を降ろす。

藤真はそれを嫌がる訳でもなく、黙って食べ続けていた。


「ね、一枚ちょーだい」


「やらねーよ」


「ケチ」


私がむくれて藤真を睨むと、藤真はそれに対抗するように私を睨み返した。


「昼飯奪われてケチはないだろ」


「それ昼ご飯なの??」


「まーな」


子供じゃあるまいし、と言いたい所ではあったが今日は何も言わない。

しばらくパリパリという音を隣で聞いていたが、意を決して持ってきた包みを開いた。


「じゃ、私も昼ご飯ご一緒させてもらおう」


藤真に聞こえるようにそう言うと、掴んだのは包みに広げられたおにぎり。


「いただきまーす」


私は藤真の返事も聞かず、おにぎりを一口頬張った。

もぐもぐと咀嚼していると、藤真の視線を感じる。

何?と視線を向けると、藤真は呆れたような顔をしていた。


「弁当がおにぎりだけって、お前も人の事言えねーじゃん」


「いちおう自分で握ったんだからポテチよりマシでしょ?」


「変わんねーよ」


ハァッとため息をつくと、再びパリパリと音が聞こえる。

私も黙ってもぐもぐと口を動かしていた。


パリパリ


もぐもぐ


パリパリ…


もぐもぐ……


「ねェ、交換しない?」


「は?」


私のいきなりの申し出に、もちろん藤真は変な顔をしている。


「私の昼ご飯半分あげるし、ポテチ半分ちょーだい?」


「やだよ」


「いーじゃん。ポテチちょーだいよ」


これじゃあ私、すごいポテチ食べたい人みたいじゃん。

でも今はそんな事気にしていられない。

しつこいくらいに言い続けると、藤真はしぶしぶポテチの袋を差し出した。


「仕方ねーな」


「やった」


私は嬉々としてそれを受け取ると、代わりに自分のおにぎりを半分渡す。

すると藤真はおにぎりを一つ手にとって口に運んだ。


もぐもぐ


見つめ過ぎないようにはしてるものの、視線はどうしても藤真の方に向かってしまう。

結局私は藤真が完全におにぎりを飲み込むまで、ずっと藤真を見つめていた。


「具がない…」


おにぎりを半分食べた藤真はボソッと呟いた。


「仕方ないじゃん、さっき急いで握ってきたんだから…」


「さっき?」


あ、口が滑った…。


「……お漬物食べる?」


ごかすように漬物を差し出すが、藤真はそんな事聞いていない。


「お前んち、そういえば近くだったな」


「そうだっけ…?」


何か言われるかなと思ったけど、藤真はそれ以上は何も言わなかった。

そして再びおにぎりを食べはじめた。




「ごちそーさん」


おにぎりを間食すると、藤真は軽く手を合わせる。

意外と律儀なんだな…なんてその姿をぼんやりと見ていると、藤真と急に目が合った。


「次に作ってくる時は梅干しくらい入れとけよ?」


え??


「べ…別にアンタの為に作るわけないじゃん!」


慌てて言い返したもんだから、思わず声が裏返ってしまった。

しかもそれはちゃんと藤真にも聞こえていたらしく、藤真はフッと口元を緩めた。


「普通の女はな、昼飯におにぎり5つも食わねーよ」


何だバレバレか…。


真っ赤になって俯いていると、上から藤真の声が降ってきた。


「でも美味かった。…ありがとな」


そして遠ざかる足音。

バタンと扉が閉まる音がしたけど、私は振り返らなかった。




休み時間に花形くんから聞いた藤真情報。

どうやら最近の藤真は食欲がないらしく、ろくにご飯を食べていないとの事。

それを聞いた私は急いで家に帰っておにぎりを握ってきた。

藤真に何とかご飯を食べさせたい一心で…。

だけどそれがバレてたとなると、かなり恥ずかしいじゃないか。


「明日は梅干し入れて来るか…」


パリッとポテチを頬張ると、塩味が口の中に広がった。




〜あとがき〜

友達以上恋人未満。
藤真もヒロインが嫌いじゃないけど、今はバスケットに集中したいみたいな…。
食欲ない原因も牧が引退してから、どことなく気持ちのやり場がなくてって感じ。
藤真はほっとけば食べなから←妄想、お母さん(花形)は心配なのです。
だからヒロインに情報提供しました。



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