拍手連載 先生と流川くん

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あの日交わした約束から、私達は完全に教師と生徒になった。

数回だけ流川くんは約束を破ったけど、それ以外はお互いに口をきくことも無かった。

すると次第に噂も消え、何事もなかったかのような日常が訪れた。



そして迎えた約束の日。



「センセー」


卒業式も終わって廊下を歩いていると、ふいに呼び止められた。


「三井くん、卒業おめでとう」


「おう」


三井くんは胸に花飾りをつけて、特有の笑顔を浮かべた。


「つーかセンセーも辞めんだって?」


「うん。ちょうど他の学校の採用試験に合格出来たから」


私が湘北を離れるのには、そう時間はかからなかった。

前から常勤の教員として働くのを希望していたし、4月からようやくその夢が叶う事になったのだ。


「へェ?よかったじゃん」


「まあね」


赴任先は赴任先で何かと問題もありそうなのだけど…。


「アレ、凄ェな」


顔をしかめた三井くんが向けた視線の先には、女子に囲まれた流川くんがいた。

アイツが卒業するわけでもないのにあの様子という事は、3年の女子達に囲まれてるという事か?


「呼んでくる?」


「何で?」


「別に…」


三井くんはニヤニヤしながら私を見る。

いつだったか、私の味方だと言ってくれた三井くんの事だから、ずっと気にしてくれてたのかもしれない。


「ようやくセンセーも卒業だな」


三井くんは何気なくそう呟いて、流川くんを見つめていた。


卒業か……。




学校を出るとあの公園に向かった。


『私が湘北を離れるまで…』


そう言った時は、それが遠い日の出来事のように感じた。

でも過ぎてみればあっという間の出来事で、マンションで抱き合った日が昨日の事のように思える。


もう桜の季節…。


公園に咲き乱れる桜が、確かな月日の流れを知らせていた。


ヒラヒラと舞う桜の花びらを見つめて、思い返すのは在りし日の自分とアイツ。

私はしばらく桜に見取れながら、懐かしい日々に思いを馳せていた。

そしてベンチに座ろうとして振り返った時、視界の端に何かを捉えた。

それは学生服を着たアイツの姿。


「いつからいたの?」


「さっき…」


桜に見入っていて全く気がつかなかった。


「声、掛けてくれたらよかったのに」と呟けば、流川くんはこちらに歩み寄ってきた。

ザッザッという足音を立てながら、桜の花びらを身体に浴びて。


「何て呼んだらいいのかわかんなかった…」


「もう、アンタはセンセーじゃねーから」


私の目の前でピタリと止まった流川くんは、わずかに口元を緩ませている。


「約束だ…」


そう言いながら伸ばされた手は、遠慮がちに私の頬に触れた。


「……他に好きな人が出来たら、そっちに行っていいって言ったのに」


「アンタしかいらねぇ」


周りには同じ年頃の綺麗な子も可愛い子もたくさんいるのに。

わざわざこんな素直じゃない年上の女を選ぶなんて…。


「本当にバカじゃない…?」


こんな事を言うといつものコイツならムッとするくせに、今日の流川くんは違っている。


「泣いてちゃ説得力もねー」


「生意気ね…」


ズッと鼻を啜ると流川くんは眉尻を下げ、頬を伝う涙を親指の腹で拭ってくれた。


向かい合えば、ヒラヒラと舞う桜の花びらが流川くんの髪の毛に止まる。


「あ…桜……」


私は背伸びをしてそれを払った。

ぐっと近づいた距離。

すると目を細めた流川くんの顔が近づいてきて、私もゆっくりと目を閉じた。



出会ったのはまだ夏の暑さの残る教室。


アイツは当たり前のように眠り、私はそんなアイツの名前すら知らなかった。


生意気で自分ペースのアイツ。


そんなアイツにまさか心を奪われる日が来るなんて、想像もしていなかった。


『約束?』


『アンタが卒業するまで会わない…』


『………無理』


『そうね。私だって無理。だからせめて私が湘北を離れるまで…』


『そしたらアンタと一緒にいられる?』


『うん』


『わかった』


『…他に好きな子が出来たらそっちに行っていいからね』


『いかねー』


『待てなかったら忘れてくれていいし…』


『忘れねー』


『それに…』


『オレはアンタしか欲しくねー』


『…バカ。だけど……』


『?』


『大好き……』


『オレも…』






〜あとがき〜

何とか完結です。
終盤、かなりムラが出ました。

やっと終わったという感じです。
可愛いルカワを書こうと思い立って書き始めましたが、思いのほか感想をいただけて嬉しく感じています。
名前変換もなく更新も遅かったのに、最後までお付き合いいただいてありがとうございます。
このお話はこの後の別キャラ連載へと引き継がれます(笑)
またそちらの方も見ていただけると、嬉しいです。

長い間、ありがとうございました。

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