拍手連載 先生と流川くん

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流川くんが姿を現さなくなってしばらくが経った。

すれ違っても前みたいに話す事がなくなり、端から見たら普通の教師と生徒。

当たり前と言えばそれが当たり前。

だけど気持ちがついていかないのは、私が本気でアイツを想っていたという証拠なのだろう。

忘れなければやってられない。

なのに授業中の屋上なんかに来てしまったのは、何かを期待してたのかもしれない。



誰もいない屋上はとても寒い。

ブルッと震えた身体を摩ると、後ろで入り口の扉の開く音がした。


ガチャ


もしかして…。


仄かな期待を胸にパッと振り向く。

だがそこにいたのは期待していた人物ではなかった。


「先客っスね」


「お、センセーじゃん」


寒いせいか肩を竦めてポケットに手を突っ込みながら立っていたのは、2年生の宮城くんと3年生の三井くん。

どちらもバスケ部員である。


「授業はどうしたの?」


「間に合わなかった」


「右に同じ」


コイツら教師を何だと思ってんのよ…。


悪びれた様子もない二人に私は呆れてため息をつく。


「あっそ…安西先生に伝えておくわ」


わざと冷たく言い放つと二人は慌て始めた。


「わ〜〜、ちょっと待って!!」


「それだけは勘弁してくれ!」


「ったく…」


安西先生の言うことなら聞くんだから。


そういえばアイツもそうだったな…。


ふいにアイツの顔が頭を過ぎり、スッと目を細めると二人は顔を見合わせた。


「なあ、社会科準備室、立入禁止になったんだろ?」


いきなり三井くんに尋ねられ、私は我に返る。


「別に社会科準備室だけってわけじゃないでしょ?」


冷静に言葉を返すが、宮城くんは私を無視して三井くんの後に続けた。


「噂じゃ流川のせいだって?」


「何、その噂…」


仙道くんの噂の時からも、何かしら生徒の邪推が飛ぶだろう事は予想していた。

だからそれを耳に入れても動揺なんかしないつもり。

それでもその内容が気になってしまう私に気づいたのか、宮城くんが噂の内容を教えてくれた。


「説その1、特定の生徒が昼寝場にしてるから。んで説その2、センセーが特定の生徒を贔屓してるから。説その3、センセーが特定の生徒とそこで何かヤラシー事をしてるから」


そんな風に言われてるんだ…。


特定の生徒ってのはどう考えても流川くんしか当てはまらない。

噂の真偽はともあれ、流川くんを巻き込んでしまった事に対してはひどく胸が痛んだ。

わずかに俯いた私に、今度は三井くんが言葉を続けた。


「じゃあこれがオレと宮城の見解。流川の方からセンセーにちょっかいかけてて、センセーも満更ではない」


「え?」


私が顔を上げて二人を見ると、二人はニカッと笑った。


「で?どれが本当っスか??」


宮城くんの質問に私は言葉を詰まらせた。


「純粋な高校生としては、説その3ってのが面白ェんだけどな」


三井くんの冗談に私が何も言わないでいると、二人は納得したような顔をした。


「ま、最近のセンセー見てたらだいたい分かるんだけどね」


「それに流川も前にも増して暗ぇしな」


だから何なのよ…。


声を上げて笑う二人を私は黙って見つめていた。

ひとしきり笑うと、三井くんが私の肩を叩く。


「ま、オレ達はセンセーを応援してっから」


「何それ……」


「あの流川が人に執着するなんて、なかなかある事じゃねェしな」


「そーそー。アイツの保護者としては嬉しいもんスよね」


応援するなんて簡単に言わないでよね。


私とアンタ達じゃ立場が違い過ぎるんだから…。


それでも気持ちを分かってくれる誰かがいることは、少しだけ嬉しかった。


「今回は後輩の義理で見逃してあげるけど、次は安西先生に言うからね」


私は少し笑って二人にそう告げると屋上の入り口に向かう。


するといきなり二人の後ろの扉が開いた。

始めは二人の陰になって見えなかったが、二人が振り返った隙間からその姿が目に入ってきた。


「お、噂をすれば…」


そこに立っていたのは…。


「流川くん……」


私は咄嗟に視線を逸らした。

そしてそのまま流川くんとすれ違う。


それはたった一瞬の出来事。


もしかしたらいつもみたいに何か絡まれるかもしれないと期待したが、流川くんは何も言わなかった。

それ所か私に見向きもしなかった。


馬鹿だな、自分から突き放したのに。


分かっていたけど、その沈黙が苦しい……。


私は屋上の扉を閉めると、駆け足で屋上を後にした。


〜25話につづく〜




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