拍手連載 先生と流川くん

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湘北高校に文化祭の日がやってきた。

学生の頃ならそれなのに盛り上がったのだろうが、今はどうにもそんな気分になれない。

駐輪場の見張りとかこつけてサボっていると、いきなり声をかけられた。


「センセー、何やってんの?」


「ん〜、ちょっとひなたぼっこって……!」


私は目を疑ってしまった。

だってそこにいたのは…。


「今日は文化祭だろ?センセーの顔見に来た」


「……仙道くん」


とりあえず挨拶代わりにため息をつく。

すると仙道くんは面白そうに笑っていた。


「ねぇ、流川は一緒じゃないの?」


「当たり前でしょ」


仙道くんの表情からして、私をからかっているのは明白だ。

その証拠にクスクス笑っているのだから。


「アイツは、こういうのに参加するタイプじゃないもんね」


早くどこかに行ってくれないかなぁ、と思っていると、仙道くんはとんでもない事を言い出した。


「センセー、一緒に回「お断りします!」」


私が無表情で言葉を切ると、仙道くんはくっくっと声を抑えて笑っている。

そしてひとしきり笑うと


「オレ、タコ焼き食べたいな」


と、言って私の手を引いて歩き始めた。


「ちょっと!!」


私が抵抗するも、仙道くんはニコニコしながら歩き続ける。


「売り場わかんないもん。連れて行ってよ」


そして「迷子の生徒を見捨てるの?」と言われたら、私に選択肢は無かった。

とりあえず仙道くんの手を腕からはずすと、タコ焼き売り場に連れていくハメになった。


そしてタコ焼き売り場に着いたのだが…。


「あ…」


「流川でも参加するんだな」


何とタコ焼き売り場に立っていたのは流川くんだった。

流川くんは青い法被を着せられていて、ご丁寧にも捩り鉢巻きを巻かれている。


意外と似合うな〜、なんて感心していたが、すぐに事態は急変した。


「何でテメーがここにいる…」


「見ての通りデートしてんの」


眼光鋭く睨む流川くんに、仙道くんは笑って返す。

完全に流川くんが挑発されているのだと分かった。


「怖い顔して、そんなんじゃ女の子達が逃げちゃうよ?」


確かに辺りは流川くんに興味のある女子で賑わっていた。

そして仙道くんの言う通り、女子達は流川くんの異変に気づいてヒソヒソ話を始めている。


「あの子達、ミンナお前に興味があるみたいだぜ?」


「興味ねー」


相変わらず仙道くんを睨みながら答える流川くん。


「流川は女の子に興味が無いんだって」


すると仙道くんはいきなり私の方に振り返って、私の手を掴んだ。


「ちょっ……離して」


それを一際鋭く睨みつける流川くん。

そんな流川くんを見て、仙道くんはアハハと笑った。


「バスケ馬鹿だと思ってたんだけどね」


そして私の手を離す。


「そう睨むなよ」


仙道くんはハハハと笑いながら両手を軽く上げると、降参のポーズをした。


「冗談かと思ってたけど、本気なんだな」


「何が言いてぇ」


今にもキレそうな流川くんに、私は気が気じゃなかった。

そして仙道くんが何をしたいのかも、サッパリ解らなかった。


ザワザワとギャラリーが集まってくる。

同時に方々から他の先生方も集まって来て、私は何故かうろたえた。

仙道くんはそれに気づいたのか、私を見てニコリと笑った。


「センセーに迷惑かけるつもりはないし、今日は帰るよ」


一体何をしに来たのだろう?


よく分からないままに頷くと、今度は流川くんに視線を移した。


「目的は果たしたしな」


目的?


「目的って何?」


気になって尋ねると、仙道くんはニコやかに答える。

視線は流川くんに固定したまま、そして言葉は私に向けて。


「宣戦布告ってね」


すると流川くんは察したようで、冷たい目を仙道くんに向けて呟いた。


「どあほう…」


それから仙道くんはタコ焼きを一つ買うと、何事も無かったように去って行った。


一体何だったのだろうか?


辺りはしばらくザワついていたが、すぐに元に戻った。

何も言わない流川くんに、私は話しかける。


「法被姿も似合ってんじゃん」


すると流川くんは顔を背けて「るせー」と小さく呟いた。

その顔は、ほんのり赤くなっている気がして、思わず頬が緩んだのに気づく。

こんな些細な表情の変化に反応してしまうなんて、私は重症だなと思った。


それに…。


貴方以外の人間の行動は、どうでもいいと思うなんて…。



〜第20話につづく〜




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