拍手連載 先生と流川くん

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休みの日の午後、私は海岸を歩いていた。


流川くんの気持ちが本気だって分かって、しかも私の気持ちにも少なからず気づいてしまった。


だからって、どうしろっていうのよ…。


何度も自分に問いただしたけども、解決の術なんかない。


私と流川くんは、そういう関係になっていい立場じゃないもの。


「あ、センセー」


そう、私は先生でって…


「え?仙道くん!」


考えながら歩いていたので、仙道くんの釣り場に来ていたのにも気づかなかった。


今日は誰にも会いたくなかったけど、会ってしまったのだから仕方ない。


「釣れる?」


「ぼちぼち」


他愛ない会話をしながら、ふとバケツを覗き込めば、そこには水しか入っていなかった。


「釣れてないじゃん」


「今から年上のお姉さんを釣る予定」


仙道くんはアハハと笑っている。

またこの男は…と思ったけど、今日はそんな事すらどうでもよかった。


しゃがんでぼんやりと空のバケツを見つめてると、仙道くんが首を傾げた。


「どうしたの??元気ないね」


さすが仙道くん。


こういう事には、すぐに気づくのね。


「何でも…「無いわけないよね」」


「この間もしばらくメール無かったしな〜」


畳み掛けるような口調に、私は口を濁す。


「あれは流川くんが…」


「流川?」


「携帯を……」


そこまで言うと、私は口を閉ざした。


「ふーん。流川と何かあったんだ?」


「何もないよ…」


嘘……。


俯いてそう答えたけど、仙道くんは見透かしたような目で私を見ていた。


「告白された?」


私が答えずにいると、「やっぱり」と言ってクスクス笑う仙道くん。


笑い事じゃないのよ。


こっちは凄く悩んでるんだから。


「その顔からすると、センセーは流川が好きなの?」


何を聞いてくるんだ、この男は。


「自分の学校の生徒でしょ?そんな対象に考えた事ない」


私が模範解答みたいな答えを口にすると、仙道くんは次々と質問をしてきた。


「じゃあ、流川が湘北の生徒じゃなかったら?」


「でも高校生だし…」


「じゃあ流川が高校生じゃなくて働いてたら?」


「それは……」


「嫌いじゃない?」


嫌い?


むしろ……その反対。


「でも…事実、流川くんは私の生徒だもん」


そう、流川くんは私の生徒。

絶対にそういう対象に見てはいけない。


黙り込んだ私に、仙道くんは少しだけ笑った。


「それならオレの方がちょっと有利なのかな?」


「何?」


「オレと流川は趣味が似てるって事」


私は盛大にため息をついた。


「笑えない」


「冗談なんかじゃないよ?」


見返してきた仙道くんの目は、確かに揺らぐ事もなく、冗談ではないと言っていた。


「それなら尚さら悪いわよ」


「ハハ、告白くらいさせてよ」


「他を当たって下さい」


キッパリそう言うと、私は立ち上がった。


「帰るわ」


「ひどいなぁ」


いたいけな高校生に冷たくするなんて、とか呟いてるけど、この際そんなの無視。

流川くんの事でこれだけ悩んでるのに、これ以上ややこしくしたくないもの。


来た道を引き換えそうとすると、仙道くんに呼び止められた。


「センセー」


「……何?」


振り返って見ると、仙道くんはニッコリと笑った。


「オレ、センセーの事好きだよ」


まったくコイツは……。


「だから…」


「諦めは悪いんだ。相手が流川なら尚更負ける訳にはいかないからね」


ニッと笑った仙道くんの顔は、どこか挑戦的だった。


「私はアナタにも流川くんにも興味はないの」


今日一番の嘘をついて、私は来た道を戻っていった。


嘘だらけの日々に、本当の事を話す日なんて来るはずもなく―。


〜18話につづく〜




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