拍手連載 先生と流川くん

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追試が終わると忙しいのも落ち着いた。


「最近、流川来なくなったわね」


「そうですね」


同僚の田中先生に問われ、そう言えばと流川くんの顔を思い浮かべる。


「追試はどうだったの?まさか…」


「ギリギリ合格です」


「合わせる顔が無いって性格でもなさそうなのにね」


「本当ですね」


ここ最近…、正確にはアレから流川くんは社会科準備室に来なくなった。


『アンタが好きだ』


そう言われた私は、咄嗟にその真剣な眼差しから逃げた。


『そんなんで内申が良くなるって思ったら大間違いよ』


『そんなんじゃね…』


『そんな事言ってる暇があったら、帰って勉強しなさい』


目を逸らしたまま、ヒラヒラと手を振ると、流川くんはしばらく黙っていたが、そのまま部屋を出て行った。


怖くて目が見れなかった。


それ以来、私は流川くんと話していないし、流川くんもここには来ない。

だからと言って、私は気にする訳にもいかない。


彼の気持ちが本気だろうが、私がそれにときめこうがどうにもならない。


だって、私は教師で流川くんは生徒。


それは曲げられない真実なのだから。




昼休みに廊下を歩いていると、廊下の端から声が聞こえてきた。


「流川くん、付き合って欲しいんだけど…」


つい『流川』という単語に反応してしまった。

そっと声のした方を覗くと、そこには可愛らしい女子生徒と流川くんが向かい合って立っていた。

たが、表情は対照的。

赤らめられた女子生徒の顔とは正反対に、流川くんは無表情だった。

きっとドキドキしながら返事を待っているだろう女の子に、流川くんは冷たい声で「興味ねー」と呟く。

その途端、女子生徒は顔を歪めてその場を走り去った。


勿体ないな〜。


あんな可愛い子を振るなんて…。


私もその場を離れようとすると、振り返った流川くんと目が合ってしまった。


ドキンッ


急に胸が跳ねる。


「……のぞき見?」


「ち…違うわよ。通り掛かっただけよ」


「ふーん」


久しぶりの会話に声が上擦りそうになる。

だけど流川くんはいつもと変わらない表情で、いつもと同じように応えている。


なんか私だけ意識してるみたいじゃない?


そう思えば、自然と気持ちが落ち着いてきた。


「何で断るの?可愛い子じゃない」


「同年代に興味がない」


「何それ、生意気ね」


「アンタの真似」


「勝手にパクらないでよね」


緊張が解けると、するすると言葉が出て、いつもの会話になった。

まるで、あの日の告白が嘘のように、以前と何も変わらない。


「アンタさ、モテるくせに勿体ないよね」


もしかして女の子を愛せないとか?なんて言いながら笑っていると、流川くんに睨まれて笑うのを止めた。


「ナメんなよ…」


「な…何?」


急に流川くんの空気が変わる。

まずいと思った時には、既に手遅れだった。

いきなり腕を引き寄せられ、私は流川くんの胸の中に納められる。


「何で分かんねーの?」


痛いくらいに抱きしめられ、それが流川くんの気持ちを表しているようで怖かった。

「また冗談なんでしょ?」


「冗談なんか言わねー」


ギュッと腕に力が入る。



怖い―。



耳元にあたる流川くんの心臓が、ドクドクと早めの鼓動を打っている。


本当は分かってるんだ。


でもね……。


「離して。こんな所見られたら、アンタのファンクラブの子に誤解されるでしょ」



怖くて堪らない―。



「アンタがいいんだ」


分かってるから…。


でも、お願い……。


それ以上言わないで…。


でないと私…。



「オレは、センセー以外に興味持てねーんだ」



必死に留めてるこの手を、貴方の背中に回したくなるから―。




『貴方に傾いている自分に気付いてしまいそうで、怖くて堪らない』



〜17話につづく〜




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