拍手連載 先生と流川くん

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笑顔が引きつるって言葉を耳にした事がある。

私は今、まさにその状態にある。

私の座る机の上には、26点という情けない数字の答案用紙。

名前の欄には右上がりに書かれた「流川楓」という名前。


「よく平然とここに来れたわね〜」


「何が?」


無理矢理上げた口角が、ピクリと動く。


「わざわざ試験対策のプリントだって、配ったはずよ?」


「そうだっけ?」


再びピクリ…。


「あれだけ毎日出入りしてて、少しは勉強しようとか思わないわけ?」


「別に」


ふぁ〜っと欠伸をする生徒を前に、私は机をダンッと叩いた。


「勉強しろって言ったでしょ!」


いつもなら他の先生の目もあるし、ここまで感情を表す事はない。

だけど、今回は別。


赤点取って呼び出されたくせに、欠伸をするとはどういう根性してんのよ!


手がヒリヒリするのを感じつつも流川を睨めば、当人はシレッとしてため息を一つ。


「…教え方が悪い」


一発殴ってもいいですか!?


幸いにも?今は部屋に流川くんと二人きり。

私を止める先生は誰もいない。

今日は徹底抗戦の構えで、私は流川くんとやり合う事にした。


「教え方って、歴史なんて覚えりゃいいでしょうが!」


「無責任教師…」


「何ですって!?私はね、アンタ達が覚えやすいようにって年表もゴロ合わせにして教えたでしょう!」


「知らねー」


「はいはい、誰かさんは寝てたもんね!このままじゃ内申にも悪く書かれて、大学にも行けないわよ!」


「アメリカ行くから関係ねー」


「どこに行っても勉強はあるの!アメリカ行くって言うけどねェ、英語だって勉強しないといけないのよ!?」


「知らねーヤツの名前覚えるよりマシ」


ああ言えばこう言いやがって…。


そしてオマケに再び欠伸をされると、一気に身体の力が抜けた。


「あのさぁ……確かに歴史はつまんないかもしれないけどね、あれだけ気持ち良く白紙だとこっちまで滅入るわけよ」


ため息を一つつけば、流川くんは表情を変えないまま私を見返した。


「センセーがつき合ってくれるなら頑張る」


「は?」


私は言われた言葉を飲み込む事が出来ずに、ポカンと口を開ける。


「アンタがオレを好きになってくれるなら、二度と赤点は取らない」


またこの間の話の続きかと思い、「冗談言わないで」と笑って流せば、「冗談なんかじゃない」と酷く真面目な顔で返された。

視線は交差したまま、私は釘付けられたように流川くんを見つめていた。

流川くんの切れ長の目がスッと細められて、やけに大人びて見える。


ああ、流川くんって綺麗な目をしてるんだな…。


ドクン、ドクンと鼓動がやけに大きくなり、耳の奥にやたらと響いた。

廊下からは生徒達の声が聞こえているのに、この部屋だけが別世界のように感じる。


「アンタが好きだ…」


決して大きな声ではなかったのに、まるで耳元で囁かれたかの様だった。

繰り返し、繰り返し囁かれた言葉が頭を反復している。



どうして?


私、ドキドキしてる…。




〜16話につづく〜




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