拍手連載 先生と流川くん
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珍しく夢を見た。
内容は覚えてないけど、とてもフワフワして気持ち良かったのを覚えている。
目を覚ますと見慣れた天井が目に映った。
いつもの生活通りに洗面台に行って、顔を洗おうと蛇口に手をかけた途端、昨夜の事を思い出した。
そういえば流川くんを泊めたんだ…。
我ながら思い切った事をしたもんだと思ったものの、非常時だったのだから仕方がない。
時計の針は8時半を回った所。
アイツはまだ寝てるのかと部屋をノックするが、返事は無かった。
そっと開けてみると、そこには流川くんの姿が無い。
律儀に布団が畳まれているのは意外だったが、もう部活にでも行ったのだろうと解釈した。
とりあえずホッとして、朝ごはんでも買いにコンビニに行こうとした時、とんでもない事に気づいた。
ウチの鍵ないじゃん!!
流川くんの顔が頭を過ぎる。
アイツ、鍵持ったまま出掛けやがったな!
ていうか、これってまさか軽く監禁状態??
まさか自分の部屋で監禁されるとは思ってもみなかった。
合い鍵を探そうと部屋を漁ったが、合い鍵は母親に預けている事を思い出して愕然とする。
「はあ…。こんな事なら泊めるんじゃなかった」
幸い?にも、流川くんの洗濯物は置いてある。
きっとまた戻ってくるに違いない。
結局、私は鍵が帰るまでひたすら待ち続けるしか無かった。
――――
ガチャガチャ
昼過ぎになって、ようやく鍵を回す音が聞こえてきた。
弾かれたように玄関に向かうと、そこには当たり前のように靴を脱いで上がり込んでくる流川くんの姿があった。
そして開口一番…。
「…腹減った」
こいつ、どの面下げて帰って来やがった。
しかも私の顔を見ると…。
「何か食うモンないの?」
お前、空気読めよ!!
私が呆れて何も言えないでいると、流川くんはスタスタと部屋に上がり込んでいった。
慌てて追いかけると、ヤツは蔵庫を漁っている所だった。
「…アンタね、どういうつもりなのよ」
「何が?」
流川くんは冷蔵庫から牛乳を取り出して口をつける。
勝手に牛乳飲むな!
しかも口つけんな〜!
再び冷蔵庫を我が物顔で物色する流川くん。
私が声をあげようとすると、流川くんが私の方を振り向いた。
「腹減った」
「……はぁっ」
流川くんのマイペースっぷりに、もはや何も言えなかった。
確かに私もお腹がすいていた。
「ピザでいい?」
コクリと頷いた流川くんを確認すると、私は宅配ピザに電話をするのだった。
――――
「満足した?」
テーブルを片付けながら流川くんを見ると、流川くんはまだ物足りなそうな顔をしている。
でもそれはこの際無視。
ピザだってそんなに安くないのだから。
「で?今日の宿は見つかったの?」
「…またここに泊まる」
「今日はダメよ。誰か他を当たりなさい」
私が突き放すように言うと、流川くんは私を軽く睨んだ。
「ケチ」
「何とでも言えば〜?」
お皿とコップを洗っていると、流川くんの視線を感じる。
視線を向けると、カウンター越しのテーブルに突っ伏してこっちを見ている流川くんと目が合った。
「センセー、彼氏とかいんの?」
「何でアンタに話さなきゃいけないのよ」
「いないのか」
「忙しくてそれどころじゃないの」
「ふーん」
私が視線を外した後も、まだ視線を感じる。
その突き刺さるような感触が息苦しくて、私はどうでもいい話を続けた。
「アンタモテるんだし、彼女作れば?そしたらこんな時に泊まる所も確保出来るのにね、って教師のセリフじゃないか」
私がアハハと笑うと、流川くんが視界の端で動いた。
「センセーがなってよ」
聞き間違いかと思われる返答に、思わず視線を戻すと、流川くんは起き上がってこっちを見ていた。
「…何に?」
「彼女」
窺うような視線を向けても、いつもと変わらない表情は読めなかった。
私が返答に困って言葉を探していると、流川くんの顔が緩んだ気がした。
「そしたら今日もここに泊まれる」
ああ、そういう事ね。
流川くんなりの冗談だと解釈した私は、ホッとして洗い物を続ける。
「私は高校生には興味ないの〜。つき合うならやっぱり年上のお金持ちじゃないとね」
私が笑い飛ばすと、流川くんはいつもみたいに「ふーん」と呟いた。
「さてと…」
洗い物を終えて食器を片付けると、静かになったテーブルを見た。
またか…。
思わず笑みが漏れる。
私はソファに掛けておいたブランケットを取ると、流川くんの肩にかけた。
「夕方になったら叩き起こすからね…」
返事の代わりに、規則正しい呼吸だけが返ってきた。
〜15話につづく
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