拍手連載 先生と流川くん

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翌日は日曜日だったし、結構遅くまで飲んでマンションに帰った。

マンション前に人がいると思ってよく見ると、それは流川くんだった。


「何やってんの!?こんな時間に…」


「鍵が無くて帰れねェ」


「親は?」


「旅行。明後日まで帰らねェ」


「で?」


淡々とした口調の流川くんに、もはや嫌な予感しかしなかった。


「泊めて?」


「無理。友達の所に行きなさい」


何となく予想はついていただけに、私は即答で断った。

すると流川くんは表情一つ変えずに、ジッと私を見下ろした。


「そんなのいねー」


「バスケ部の人は?」


「仲良くねー」


まあ、そう言われたらそうなんだけど…。


大方予測通りの答えに、小さくため息を漏らす。

当たり前だが、特定の生徒を家に上げていいはずはない。

しかも相手が異性で学校のスターならば、特に気をつけなければ変に勘繰る人間も出て来るものなのだ。


「残念だけど他を…」


あたってと言おうとすると、流川くんは会話を遮った。


「あんた、先生だろ?」


そう言われて見つめられたら、私だって考えてしまう。


もちろん目の前で生徒が困っているのをほっとける道理はないし、だからと言って家にあげるのも抵抗がある。

考えた末に私は決断を下した。


「仕方ないな…。今日だけよ?」


結局このまま放り出す訳にも行かず、私は流川くんを家に上げる事にした。

話を聞けば、部活を終えて3時間はここにいたという。

その話を聞いて、驚くと同時に、朝帰りしなくて良かったとつくづく思った。


リビングに流川くんを通すと、流川くんは目をしぱしぱさせていた。

どうやら眠いらしい。

とは言っても、部活終わりの体育会系男子を放置すれば、大変な事になるのは目に見えている。


「とりあえずシャワー浴びてきなさい。着替えは?」


「余分にあるから大丈夫」


「そう。じゃあ、汚れ物は出しといて。明日も部活なんでしょ?」


頷く流川くんを確認しながら、流川くんにバスタオルを放り投げる。


「お腹は?何か食べたの??」


これにも流川くんは頷いたので、そのままバスルームに案内した。

程なくしてシャワーの音が聞こえてくる。


何か変な事になったなぁ。


幸いにも空いてる部屋と布団はあるので、寝かせるくらいなら問題はない。

パジャマは小さいけど、お父さんのを使って貰うとしよう。

バタバタと寝支度をしていると、リビングの扉が開いた。


「もう上がったの?って…ちゃんと髪拭きなさいよ?」


小さめのジャージを着て、髪の毛から滴をポタポタ落としている流川くんなんて、なかなか見れるものではないだろう。


「アンタのそんな姿見れるなんてね」


思わず笑うと、流川くんは首を傾げていた。


「何か飲む?」


流川くんが頷いたので、冷蔵庫から牛乳を取り出した。

そしてグラスに入れてリビングに戻ると、流川くんはテーブルに突っ伏していた。


まさか…。


そっと覗き込むと、やはり眠っている。


余程疲れてたんだな…。


流川くんの寝顔を見ながらフッと笑ったが、次の瞬間には流川くんの後頭部にチョップした。


「…って」


「こんな所で寝るな!!髪も拭いてないし!」


ノロノロと身体を起こした流川くんのタオルを取ると、頭の上に乗せる。

そのままガシガシと水気を拭いていると、流川くんは目を擦り始めた。


「……眠い」


「あっちに布団敷いたから、向こうで寝なさい」


そう言ってタオルを取ると、流川くんは私に視線を寄越した。


「一緒に寝よ?」


は?


あまりに非常識な言葉に一瞬だけ頭がショートした。

だが、すぐに思考が働き出したので、パチンと流川くんの頭を叩いた。


「馬鹿言ってないで寝なさい!」


何故か心臓がドキドキしている。

いきなり変な事を言われたからなのだろうけど。


私が立ち上がってリビングを出ようとすると、後ろから呼び止められた。


「センセーはどこで寝んの?」


まだドキドキはしているが、出来るだけ冷静に答える。


「私はあっちの部屋。何かある時はちゃんとノックしてよ?」


私が自分の部屋を指差すと、流川くんは「ふーん」と呟いた。



〜14話につづく〜



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