拍手連載 先生と流川くん

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休日の午後、何となく海沿いを歩いていた。
すると見た事のある顔がいた。

初めは学校の生徒かと思ったが、その子が「湘北の…」と言ったから、すぐに違うと分かった。


「ああ、え〜っと確か陵南の……」


そう、この間の練習試合で見た顔だ。

だけど私は陵南の選手の名前をほとんど覚えていない。


「え〜っと…」


このツンツン頭の名前は、何回も聞いたはずなのに思い出せない。

確か凄い選手で、流川くんとマッチアップしてた子だ。


何て言ったっけな〜?


「吉兆じゃなくて……」


すると笑い声。


「アハハ、吉兆って福田でしょ?」


福田なんて言われても、そうだったっけ?としか言いようがない。


「で、誰だっけ?」


私が降参すると、彼はフッと笑って「仙道」と名乗った。


「ああ、そう!仙道さんだ!!」


「さん?」


「ああ、赤木さんがそう言ってたからつい…」


「赤木…?赤木先輩??」


「赤木先輩?赤木さんは一年よ??」


出会ったばかりでお互いの意思の疎通は難しかったが、名前を思い出せてすっきりした。

そして赤木さんにお兄ちゃんがいると知った。


「ちなみに私は…」


「湘北の先生でしょ?」


「そうそう」


何故か「座ったら?」と隣を指差されたので、とりあえず座った。


「釣れる?」


「ぼちぼち。だけど大物がかかりそうな予感」


そう言ってフッと笑った顔は、とても高校生のものとは思えなかった。


なんか大人びてるな〜。


私は仙道くんの横顔を見ながら、コイツ絶対モテるだろうなと思った。



「へぇ〜、赤木さんのお兄さんってバスケ部だったんだ〜」


「そうそう、あんまり似てないけど」


会ったばかりの私と仙道くんの共通の話題なんて、たかが知れてる。

それでもそこから会話が膨らむのは、仙道くんが話し上手で聞き上手だからなのかもしれない。


やっぱり高校生にしては大人だな、と改めて思った。


「赤木さんのお兄さんならモテるでしょうね」


「ハハハ、先生もモテるでしょ?」


そう来たか。


その返しが出来るのは、せいぜい20代の後半だよ?


私はそう言いたいのを我慢した。


「ないない。仙道くんの方がモテるくせに」


「アハハ」


肯定もしなけりゃ否定もしない…。


コイツ、本当に高校生か??


そう思ってると、私の携帯がなった。

画面を開けると何やら見慣れぬ画面。


「最近の携帯って使い方難しいんだよね」


どうやって止めるか分からずに、鳴りっぱなしの携帯。


「ん〜?これか??」


私がテキトーにボタンを押していると、見兼ねた仙道くんが携帯を覗き込んでいた。


「貸して?やったげる」


「お願いします」


カチカチと両手で携帯を弄る仙道くん。


そんな姿を見てると、やっぱり高校生だな〜と思った。


「最近の子って携帯詳しいよね。私、自分のアドレスすらわかんないのに」


「ああ、それはこうやるの」


何やらボタンを押すと、即座に私のアドレスが表示された。


「へえー、凄いね」


私が関心していると、仙道くんは自分の携帯を取り出した。


「で、こうやって携帯を合わせると…」


「何?」


私にはよく分からないが、仙道くんは何やらボタンを押しながら携帯の裏面同士を合わせた。


『登録しました』の表示と共に見せられた仙道くんの携帯には、見慣れた私の携帯番号。


「ほら、オレの携帯に先生の番号が登録されたでしょ?」


「すご〜い!どうやったの!?」


赤外線通信なんてものを知らなかった私は、それを本気でマジックだと思っていた。

すると仙道くんは今度は本気でクスクス笑い出した。


「何?」


「先生は可愛いね」


「え??」


私は何の事か分からずに、その時は首を傾げていた。

しばらくすると、今度は仙道くんの携帯が鳴り出した。

受話器からは何やら怒鳴り声が漏れていて、部活をサボッて釣りをしていたのだと知った。


「じゃ、また一緒に釣りしようね」


「そうね」


社交辞令の決まり文句。


そのはずだったのに、家に帰り着いてから気づいた一件のメールを開いて、私は目を見開いた。


『今度はゆっくりデートしようね?仙道彰』


電話番号と一緒に添えられた内容に、一瞬だけ脱力する。


「やられた〜」


『先生は可愛いね』


ようやくさっきの仙道くんの言った言葉の意味を知ったのだった。



〜12話に続く〜




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