拍手連載 先生と流川くん

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そして待ちに待った体育祭。


年寄りに全力疾走はキツイ…。


私は強制参加の教員対抗リレーを終えて、ゼイゼイ言いながら歩いていた。

それに比べて若者達は走り終えても軽やかな足取りで歩いている。


これがティーンエイジャーとの違いなのよね、と私は若人達を怨みがましく見つめていた。


「お、センセーじゃん」


「あ、三井くん」


向かいからバスケ部3年の三井くんが声をかけてきた。

三井くんとはバスケ部に顔を出す内に仲良くなり、わりとよく話すようになった。


「センセー、マジで足遅ぇーな」


「アナタ達みたいに若くないんです」


「おいおい、そんなの古文の池谷が聞いたらキレるぜ」


古文の池谷先生とは私が学生時代からずっといる先生。

年齢不詳ではあるが、かなりの古株であるらしい事は見た目で分かる。


そんなお局教師に睨まれたら生きていけねー!


「ナイミツニオネガイシマス…」


私は即座に頭を下げる。

それを見て三井くんは笑っていたが、ふと運動場のトラックを見ると呟いた。


「お、流川じゃん」


視線を追うと当然そこには流川くんの姿がある。


「早いね〜」


流川くんは軽〜い感じで走っているのだが、それでもぶっちぎりで一番。


「アイツあれで顔もいいしモテるし、本当ムカつくよなー」


余裕でゴールをくぐった流川くんに、三井君は口を尖らせながら呟いた。


そうは言っても…。


「顔が良くても性格がね〜」


と私が呟いた途端に、流川くんがこっちを向いた。


え!?聞こえてた??


私が慌てて目を逸らすと、三井くんは「何だ?」と首を傾げていた。


「でもさー、センセーくらいだぜ?流川が絡むヤツって」


「は?」


唐突な三井くんの言葉に今度は私が首を傾げる。

すると三井くんは私の意図を理解して、理由を説明してくれた。


「ほら、練習試合ん時もそうだっただろ?何か二人でジャレてたじゃん」


ああ、アレ。

別にジャレてたつもりは無いんだけど。


三井くんはおそらく、ゼッケンの一件の事を言ってるのだろう。


「ほら、アイツ桜木以外にはあんまり絡まないからさー」


なるほど。


「やっぱりホモなのか……」


私の小さな呟きは三井くんにも聞こえていたらしく、三井くんは声を上げて笑っていた。


「ハハハ、そりゃわかんねーけどさ。センセーの事、よほど気に入ってんだろな」


流川くんがホモだとしたら、私、男に見えてるって事か?

やっぱりたまにはスカート履くか〜?


「ほら、噂をしたら」


三井くんが笑うのを止める。


「え?」


ビシッ


「いてっ!」


私が顔を上げると同時に、頭の上にチョップが飛んできた。

現れたのは流川くん。


「何すんのよ!」


私が頭を押さえながら睨みつけると、流川くんは私を見下しながら低い声で呟いた。


「なんか悪口言ってた気がする」


地獄耳か……、恐ろしいガキめ。


な〜んて流川くんに言ったらまたチョップされそうなんで…。


「違うわよ。アンタがモテていいな〜って三井くんと話してたの」


と三井くんに視線を送ると、「大方はな」と三井くんは苦笑しながら合わせてくれた。

すると流川くんは僅かに眉を潜めた。


「また…」


「え?」


私、何か言ったっけ?


流川くんは不満げに私を睨む。


「名前」


名前?

ああ、『アンタ』が引っかかった訳ね。


「ああ、ゴメン。なんか癖でさ」


「…別にいい」


流川くんはそうは言ったものの、不機嫌そうにムスッとしていた。


「流川くん、あと何に出るの?」


「学年対抗」


話しを逸らすつもりで尋ねると、流川くんは普通に答えてくれた。


何だ、機嫌は悪くないじゃん。

って、私が何で流川くんの機嫌伺わなきゃいけないわけ??


それが顔に出ていたのか、流川くんはジッと私を見ていた。


「あ、もう整列してんじゃない??」


私がごまかすように言うと流川くんは「うす」と呟いて、その場を去って行った。

―――――


「ふ〜ん」


流川くんが去った後、ニヤニヤしながら三井くんが呟いた。


「なに?」


「アイツもフツーの高校生だったんだなーって」


普通って…どう見ても普通の高校生じゃん。

ちょっと無愛想で単語数が少ないけど。


「どういう意味?」


「いや、別に」


ストレートに聞くと、三井くんは相変わらずニヤニヤしながら答えた。


「気になるじゃん」


「ま、そのうち分かるさ」


問い詰めようとしたら三井くんは「オレも学年対抗リレーに出るから」と言って逃げた。



学年対抗リレーは流川くんと三井くんの健闘も虚しく、アンカーに宮城くんを擁した2年生の勝利に終わった。



〜10話につづく〜




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