拍手連載 先生と流川くん

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授業を改善したのがきっかけだったのか、近頃は生徒との距離が縮まった。

おかげで授業終わりや廊下で呼び止められる事も増えた。

始めは授業の話がメインだったけど、最近は気になる男子の話を持ち掛けてくる子もいる。

大人な目線からすると、彼女達の話は甘酸っぱくて懐かしいものばかり。

ああ、そんな時代もあったなと、在りし日の自分を思い出してみたり。


「先生、この間、流川くんを呼び出したんでしょう?」


「何で知ってんの?」


「流川くんってモテるんだよ〜。すぐ噂になるんだから」


今日もまたこの手の話。

しかも話題の中心はいつも流川楓。

私はずっと謎に思っていた。


「ねえ、流川くんのどこがいいの?」


私が以前から気になっていた質問をしてみると、女子生徒達は一堂に驚いた顔をした。


「え〜!?先生、あの魅力がわかんないの??」


魅力って…10歳近くも歳下で、しかも生徒の男の子をそんな目で見たことないし。

しかも話してみても、その魅力とやらを全然感じなかったんですけど。


「みんなが言う程いいとは思わないかな……?」


私の素直な意見に、女子生徒達は一斉に批判の声をあげる。


「カッコイイじゃん!!背高いし顔もいいし」


「それにバスケ上手いし〜」


「流川くんと比べたら、他の男子とか本当どうでもいいし〜」


毎度の事だが、聞き飽きた。

流川くんのかっこよさを尋ねると、たいていはこんな感じで返事が返ってくる。

彼女達は口を揃えてこう言うが、私はそれでも流川くんの魅力がわからない。


色んな学生達を見たが、最近の高校生は結構な割合でめかし込んでいる。

女子は化粧するのが当たり前。

男子は女子に比べて劣るものの、わりと気合い入れてる方だと思う。

それに比べてただスポーツが出来て、顔の造りがそこそこいいだけの流川くん。

授業は寝てるし、寝起き悪いし。

一体何が女子の心を掴んでいるのか分からない。


「無口なのもいいんだよね〜」


「そうそう!」


さらに続く流川くんへの賛辞の言葉。

無口が美徳って、最近の女子の好みは理解しがたいものだ。

一昔前のお父さんじゃあるまいし。


「とにかくカッコイイんだからぁ!」


魅力は分からないものの、これ以上聞くと彼女達に洗脳されそうなので、テキトーに頷いて話を流す事にした。


すると、廊下の向こうから噂の張本人である流川楓が現れた。

流川くんは私をチラリと横目で見たものの、知らんぷりして通り過ぎようとした。


やっぱり失礼なヤツ。


「ちょっと流川くん」


私が呼び止めると、一緒にいた女子生徒達が小さく悲鳴を上げた。


おいおい、芸能人でもあるまいし…。


流川くんの耳にもその悲鳴は聞こえているのか、面倒くさそうに顔だけこちらに向ける。


「目があったんなら、せめて頭下げるくらいしなさいよ」


教師らしく指導してみると、流川くんはふうっとため息をついた。


やっぱり可愛く無いんですけど!


「仮にもスポーツマンなんだから。バスケでも挨拶はするでしょ?」


もっともらしい理屈をつけると、流川くんは渋々返事をした。


「…うす」


「よろしい」


これの何がいいんだか。


偉そうだし、人の授業は堂々と寝るし…。

あ、最近は寝なくなったけど。


無言で立ち去ろうとする流川くんの背後から、私は再び声をかけた。


「今日の午後、私の授業あるし寝ないでよ」


すると流川くんは再び顔だけで私を見て、ふうっとため息混じりに答えた。


「わかんねー。もう眠い…」


ついでに欠伸までしやがったな。

次の授業の為に、ちゃんと余談考えて来たんだからね!


昨晩の予習に費やした時間を思い出したら、絶対寝かす訳にはいかない。


「いま寝てきなさいよ」


「寝たら起きれねー」


「じゃあ、顔でも洗ってきたら?」


「考えとく」


「寝たら課題増やすからね!!」


「ちょっと、先生!」


女子生徒から声をかけられて、私はハッと我に返った。

周りからは複数の視線を感じる。

それは大半が女子生徒からのものだった。


ああ、そうだった。

コイツ、モテるんだった。


変に絡んで女子の恨みを買うこと程怖いものはない。

それは教師も同じ事。

私はそれ以上は流川に絡むのを止める。


気をつけなきゃ。

せっかく生徒とも仲良くなり始めたのに、こんな事で台なしにはされたくない。


理解出来ないにしても、流川くんがモテるのは事実。

これから気をつけなきゃ、と心の中で呟いて私は次の授業の準備をする為に準備室に向かった。



〜第4話につづく〜



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