拍手連載 先生と流川くん

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担任の先生からの紹介で始めてこの学校の教壇に立った。

代理とはいえ教師歴2年で、まさか公立高校の副担任を任されるとは予想もしていなかった。

しかも湘北高校は私の母校でもあり、正直緊張している。


「専攻は日本史。林先生が復職されるまでの間ですが、宜しくお願いします」


短い自己紹介を終えて、お決まりの質問タイム。

彼氏はいますか〜?なんて質問をする人なんて今時いないらしく、出身大学とか当たり障りの無い質問を受けた。


日本史の授業は1限目には無いので、しばらく職員室で準備をしながら授業を待つ。

2限目になり、始めての授業を行うべく教室に向かった。

クラスの印象としては大人しい感じ。

生徒に進み具合を確認しながら授業を始めた。


日本史の授業で、最大の敵は居眠りだと思う。

数学や化学みたいに頭を使わない授業だけに、一方的に授業を進める事が多くなる。

しばらくすると、案の定、居眠りする生徒がチラチラと現れた。

個人的には寝かせてやりたいけど、いちおう立場上注意をする。

数人眠っている中でも、明らかに寝る体制を整えている人物に犠牲になって貰う事にした。

座席表と名簿を比較して名前を突き止める。


『流川楓』


名前はすぐに分かった。

しかし困った事に、読み方が分からない。


流れる川…何て読むの?


私が『流川楓』を見ながら黙っていると、それに気付いた生徒が彼と私を交互に見た。

私の意図している事は伝わっているはずだが、誰も起こしてくれる学生はいない。

何だか生徒との隔たりを感じた。

そんな中、名前の読み方を生徒に聞くなんて事は出来ず、諦めて授業を進める事にした。


初日から自己嫌悪…。


次からは名前くらいは調べて来よう。


数年前に卒業した母校は、何ら変わっていない。

知ってる教師も数人いたし、彼らと同僚となったのが不思議な感じだ。


放課後になると、私は恩師に挨拶に行こうと思い体育館へ向かった。


――――


体育館はとても活気があり、私がいた頃とは比べものにならなかった。

中を覗いて見たが、目的の人物は見当たらず、逆に生徒達の好奇の視線を浴びた。

しかしここに立っていても埒があかないので、手近にいた女子生徒に声をかける。


「えーっと…安西先生は……」


「まだ来てませんが」


「あ、そうですか」


生徒のハッキリした受け答えに、こっちが敬語になってしまった。

しかし何と大人びた女子生徒なのだろう。

Tシャツの上からでもわかる程のバストサイズに、スパッツから見える足のライン。

近頃の女の子は発育がいいものだ、なんて思わず親父みたいな発言をしそうになった。


気を取り直して私は体育館に入ると、先程の女子生徒にもう一度話し掛けた。


「待たせて貰ってもいいかな?」


「…」


女子生徒は不審な目で私を見つめている。


「な…何?」


「失礼ですが、どちら様?」


これは軽くショックだった。


わりと童顔に見られる方だが、化粧や服装でごまかしているつもりだったのに。


「まさか先生だったなんて…」


落ち込んでいる私をそっちのけに、女子生徒は笑っていた。


「よく言われるから…」


教師だと分かって警戒を解いたのか、女子生徒は彩子と名乗り、バスケ部のマネージャーをしている事を明かしてくれた。

要するに、私の後輩になるという事だ。

私が数年前に同じくマネージャーをしていた事を告げると、彩子はビックリしていた。


「それにしてもギャラリーが多いのね」


入り口はもちろん、2階の通路にも複数の生徒がいる。

ギャラリーを従えるということは、それなりに活躍しているということなのだろう。


「バスケ部ってそんなに強いの?」


「今年はインターハイまで行きましたからね」


「それでか」


ギャラリーがいる理由に納得がいった。

しかし彩子はそれを否定する。


「あれは別ですよ?あの子達はみんな流川の親衛隊」


「ルカワ?」


「そう。ほら、アイツです」


「ふーん」


彩子に指を差された人物は、黙々とシュート練習に励んでいた。

確かに女子生徒の視線はそこに集まっている。

顔立ちは綺麗で背も高い。

これでインターハイまで行けば、それなりにモテるのだろう。

それにしても親衛隊なんて、大袈裟な言い方。

私はルカワと呼ばれた生徒を確認すると、すぐに目を離した。


しばらくすると安西先生が体育館にやって来て、私はようやく挨拶を済ませて職員室に戻った。




〜第2話につづく〜






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