深淵シリーズ短編集

□深淵に咲く幻の花
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「ナル、ここだ」
 シカマルに声を掛けられて反射的に瞑っていた目を開いたナルトはその光景に言葉を失った。
「―――っ」
「すごいだろ、今回の任務の下見をしてた時、偶然見つけたんだ。満月の夜、この時間にしか見られない幻の光景らしいぜ」
 目の前にあったのは月夜に浮かび上がる木と、ひらひらと舞い落ちる白く光る花びら。
 そう、舞い落ちる花弁や木に咲き誇る花が淡い光を放って月夜に浮かび上がっているのだ。
それは幻と呼ばれるのに相応しい夢のような光景。
「これ…桜?」
 ナルトは手のひらに落ちてきた花弁を見てシカマルに訊ねる。
見た形からして桜の花弁そのもの。しかし、光る桜など見たことも聞いたこともない。
「ああ、これは紛れもない桜の花だ。昼間は普通の桜にしか見えないが、満月の夜、この時間帯一時間だけは花弁が淡く輝く。桜の突然変異だって周辺に住んでいる奴らは言ってたけどな」
 含みのある言葉に気付いたナルトは苦笑を浮かべているシカマルに視線で続きを要求する。
シカマルはそれに答えて知っている知識を全て披露した。
「普通の人間はこの光景を見ることは出来ない。だから幻の光景だ、と話を聞いた奴に言われた。見ようと思うな、見たら死ぬぞ、ともな。たかが桜で何故そこまで、と思って来てみたんだが、原因がわかって驚いたぜ」
「シカ、原因って?」
「ああ、ナル、この結界から少しだけ出てみろよ。すぐに戻って来いよ」
 シカマルに言われるままナルトは結界から一歩外に出る。
その途端物凄い虚脱感が襲い、慌てて結界に戻った。
「シカっこれっ…!」
「ああ、わかっただろ」
 ナルトはシカマルが何故結界を張ったまま移動したのか、その理由を始めて正確に理解した。
「まったく、面白い土地だぜ。この桜が見える範囲一帯だけ特殊な磁場になっていて、生き物の生命エネルギーを吸い取るだなんてな。しかも満月の夜、この時間帯だけの限定付だ。人為的に生み出されたものなのかと思って調べたけど、そうじゃない。自然派生したものなんだからまた興味深い」
 目を細めて笑みを浮かべるシカマルはとても楽しそうで、シカマルの知識欲をそそる存在にナルトは少し不機嫌になる。
 それが嫉妬という感情であることを本人は気付いていないのだが。
「シカ、じゃあ、この花弁の淡い光は生命エネルギーだってことなの?」
「ああ、そういうことだ。危険といえば危険だが、俺達は結界があるし、この美しさは一見の価値がある。これを見たときどうしてもナルに見せたいと思ったんだ」
 ナルトはシカマルの言葉に嬉しくなって抱き付き、甘える。
シカマルはそれを享受し、額、頬、唇の順に軽い口付けを落とした。
「シカ、ありがと」
「どういたしまして」
 抱き締め合って見る幻の光景はまた格別に美しく見えて。
二人は元の桜に戻るまで飽きることなく夜の花見を楽しんだ。

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