同い年の親子シリーズ

□嘘の日とサイの本音
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 今日は久々の合同演習だった。
 ナルトが木の葉へ帰還した早々、風影の件やサスケの件でバタバタしてしまった為、五代目火影である綱手が同窓会がてらこういうのもいいだろうとナルトの同期である元7・8・10班の面々と新しく仲間になったサイの予定を調整してくれたのだ。
 その好意に甘え、演習場に集まったナルトと同期達は久々のゆっくりした再会に、尽きぬ話に花を咲かせたり、手合わせをして互いの実力を確かめたりと楽しい時を過ごしていた。
 そんな中、新しい仲間となったサイは彼らの空気に上手く馴染めず、少し距離を置いた所から応対していた。
 シカマルとチョウジに至っては出会い方が最悪だった為、初め少々警戒していたが、7班になった経緯を話すと怪訝そうにしながらも受け入れた。
 事情を知らない他の者達は、サイに対して興味津々で、シカマルやチョウジに何の話だと訊ねる。
 特に黙っている理由も無い為、素直に事情を話していたのだが、サイが吐いたあの時の暴言のくだりまで来た時、さすがに皆も顔を顰めた。
 同期達は皆ナルトが好きだった。
 好意に差はあれど、彼の真っ直ぐな心に触れ、彼と共に歩むことを、同期であることを誇りに思うくらい大切なのだ。
 そんな彼に向かって吐いたサイの暴言を快く思う者はおらず、非難の目でサイを見たのだが、それをサクラとナルトが宥めてその場は納まりかけた。
 しかしその時、ずっと笑顔を張り付け沈黙していたサイが急に叫び始めたのだ。
 そしてあろうことかサイはシカマルとナルトを、“父上、母上”と呼びながら抱き付き、皆は突然のことに思考が停止したのだった。
「父上、母上、僕はっ」
 抱きついて必死で訴えるサイに、思考を停止しなかったシカマルとナルトはため息を吐いた。
皆の前でのこの状況、甚だまずいものがある。
 しかし、だ。
目の前の感情が限界に来ているサイを放っておくことは、二人には出来なかった。
 なぜなら、サイは二人にとって互いの次に大切な養い子なのだから。
「サイ…」
 ナルトはサイに優しく呼びかけて抱き締める。
 びくりと体を震わせるサイにますます愛おしく思い、小さく笑みを浮かべて幼子をあやすように背中を一定のリズムで叩いてやる。
 シカマルも同期達すら見たことのない慈愛に満ちた笑みを浮かべサイの頭を優しく撫でていた。
「サイ、落ち着け。大丈夫だから、な?」
「母上…っ」
「サイ、悲しい思いさせて悪かったな。だが、表でどんなに仲が悪くても、暴言を吐かれても、俺もナルもお前を嫌いになんてならないぞ? お前は俺達の大事な息子だからな」
「父上…っ」
 二人の諭すような言葉に、だんだん落ち着いてきたサイは、ナルトの腕の中で大きく息を吐き、安堵の笑みを浮かべた。
「もう、大丈夫だな?」
「はい、申し訳、ありません…」
 サイが落ち着いたのを確認したナルトはそっとサイを腕の中から開放する。
シカマルもやれやれ、と笑いながら、サイが落ち着きを取り戻したことに安心した様子だった。
「…さて、サイ? この状況わかっているか?」
 ナルトは、苦笑いしながらちらりと周囲に目をやる。
 つられてみてみればそこには固まっているナルトの同期の面々。
「あ…す、すみません……」
 自分が犯してしまった失態に、サイは二人に申し訳なくて、落ち込む。
そんなサイに黙ってぽんと頭を叩いたシカマルはいい機会かもな、と小さく呟いた。
「おい、お前ら、いつまで固まってるんだ?」
 シカマルの呼びかけに、我に返った同期達は、口を金魚のようにぱくぱくさせながら、ようやく声を絞り出す。
「ちょっと、一体さっきのは何!?」
「父上、母上って何の冗談だよ!」
 一斉に叫び始める皆に、ナルトもシカマルもサイも呆れたように皆を見る。
「何って聞いたまんまだってばよ?」
「聞いたまんまって、だって、サイは私達と同じ年で、でもサイはナルトとシカマルを両親だと言っていて…そんなことありえるはずないでしょーっ」
 パニックに陥っているサクラといのに混乱しておろおろするヒナタ。
そして、頭を抱えるキバに何を考えているのかわからないシノ。
 その中でチョウジだけが、いつもと変わらぬ表情に戻り、お菓子を食べながら皆に告げた。
「ねー皆、落ち着きなよ」
 チョウジののんびりした声に聞いているのかいないのか。
変わらない状況を見つつ、チョウジは更に続けた。
「皆、今日何の日か知ってる?」
「は? 今はそんなことどうでもいいだろうがっ」
 チョウジの言葉にキバは速攻で突っ込みを入れる。
その後ろで何事か考えていたシノが、納得したように頷いた。
「そうか…今日は4月1日だな」
 シノの言葉に混乱していた皆がぴたりと止まる。
「…4月…」
「1日…?」
 オウム返しに呟いた皆に、チョウジはうん、と肯定した。
「わからない? 4月1日、エイプリルフール。嘘をついてもいい日、だよ」
「ええ―――っ!」
 皆の回らなかった思考が勢いよく回りだす。
 つまり、チョウジが言っているのは、今のサイの行動も、シカマルとナルトの行動も全てが嘘であるということ。
「なんだ…そうか…そうよね…」
「…親子だなんてありえないから逆に信じちゃうところだったわー」
「さすが里一の悪戯小僧! たく、驚かせんじゃねーよ! シカマルもサイもナルトの嘘に一枚かみやがって!」
 皆一様に安堵した表情でナルト達に声をかける。
ナルトとシカマル、そしてサイは思いがけなく都合のよい展開になったことに一瞬唖然としたが、気を取り直して話に乗った。
「ちぇ、チョウジ、気付くの早いってばよ! もう少し騙されてたらよかったのに!」
「まぁ、アカデミーの頃から一緒に悪戯やってた仲間だからなー俺達の嘘はお見通しってわけだ」
 詰まらなさそうに嘘を認めるナルトと、しょうがないとばかりに苦笑するシカマルにチョウジは相変わらずお菓子を食べながら笑って答える。
「まあね、でも、まさかサイまで乗るなんて思わなかったから少し戸惑ったけど」
「…こんな嘘に乗ることも、皆と早く打ち解けることに役に立つと、ナルトやシカマルから言われてね」
「そうなんだ」
 頷くチョウジにその場の雰囲気が一気に和らぐ。
そして先程まであったサイと彼らとの距離が縮まったのをシカマルとナルトは感じ、思わず微笑を浮かべた。
 その後、何事もなく演習が終わり、皆が解散する中、チョウジがそっとナルトとシカマルに近付き小さな声で囁いた。
「ね、いつか、本当のこと教えてくれるよね? それまで僕待ってるから」
 それだけ告げてにっこり笑って去って行くチョウジにナルトもシカマルも絶句する。
だが、それも一瞬で、二人は弾かれたように笑い始めた。
「くくっ、チョウジのやつにはかなわねえなぁ」
「うん、ほんと、さすがシカの幼馴染だ」
 サイにもチョウジの言葉はしっかり聞こえていて驚いた様子でじっとチョウジの去った後を見ていた。
「…つまり、チョウジはあれが偽りではなく本当だと知っていてあえて嘘だと皆に誤魔化してくれたんですか」
「そういうことだ」
「いい奴だろ? サイ」
「あいつにはその内、真実を教えてやろうな」
 穏やかに笑って告げる二人を見てサイもつられるように笑顔で頷く。
 サイの作り物ではない本当の笑顔を、二人は嬉しそうに見ていた。

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