同い年の親子シリーズ

□策士の誤算
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 表の姿での任務。
これが今回の必須条件だった。
それは襲撃してきた空忍達を油断させる為であり、敵味方を判断する為でもあった。
だが今になってそれを後悔することになろうとは。
シカマルは少し離れた上空で行われている愛しい人、ナルトの戦いを術で確認しつつ、深い溜息吐いた。








「今回は二手に分かれた方がいいだろう」
 突然木の葉を襲った敵の襲撃、それを結界と幻術を駆使した大規模な術を使って回避したナルトとシカマル。
その後すぐさま反撃態勢を整える為、蒼光と蒼闇として五代目火影である綱手と三人で話をしていた。
先程まで集まっていた暗部数名には里人への説明を、ヤマト、カカシにはナルトとシカマルを呼んできてもらうよう頼み、遠ざけてある。
二人に呼んで貰うように頼んだのは実は影分身で、本人が自身を呼んできてくれということに、滑稽さを覚えた蒼光と蒼闇は苦笑をせずにはいられなかったのだが。
 前置きはさておき、蒼光が二手に分かれよう、と提案した意図を蒼闇は察してはいたのだが、綱手はさっぱりわからず首を傾げていた。
「どうして分かれる必要があるんだい?」
 綱手の疑問に蒼闇は嫌な顔せずその理由を説明する。
「さっき蒼闇が話をしただろう、今回は里に悪意を持たない存在のみを守護対象に選択して術を行使した、と。その意図は二つあった。一つは敵を簡単に除外する為、そしてもう一つは一般人を装う、もしくは味方と装っている敵を判別し、割り出す為、だ」
「!」
 綱手はその説明で示唆された可能性に気付き愕然とした。
「スパイ……か」
「ああ。おかしいだろう、突然、誰にも気付かれずに木の葉を襲撃してきた事自体が」
「…確かに。それで、目星はついたのか?」
「ついた。蒼闇と俺がつけた条件を満たさず、この影の世界に移動できなかった者が一人いる」
「誰だ、それは」
「…旅医者、神農」
「神農?」
 綱手は耳にしたことのある名に眉を顰める。
「何かの間違いじゃないのかい? 神農と言えば、医療の心得があるものの間では腕がいいと評判の医者だぞ」
「だが、実際俺達のつけた条件に当てはまらず、影の世界に移動できなかった。綱手、神農と俺達、どちらを信用する?」
 突き刺すような視線で問う蒼光に、綱手は何も言えず黙り込んでしまった。
「綱手様、表で様子を見る限り、私達も純粋に命を大切にする医者にしか見えませんでした。でも術が失敗したなどはまずありえないのです。ここは私達に任せていただきせんか」
「……わかった。私が何よりも信用するのはお前達だ。すべて任せる」
「すまない、綱手」
「ありがとうございます、綱手様」
 無条件の信頼に微笑む二人。
その二人を慈しみの表情で綱手は見つめた。
「で、話の続きだが、神農には俺が付く。幸い、ナルトが表で神農と接触しているし、神農の弟子だと言うアマルとも知り合ったようだからな」
「彼らは襲撃にあったアマルの村に向かう予定でしたね。怪我人の手当てが目的ですから、必然的に三人一組(スリーマンセル)は医療忍術が出来るサクラとヒナタになりますが…大丈夫ですか?」
 蒼闇は心配そうに蒼光を気遣う。
その心配が何処にあるのかわかっている蒼光は心配させないため笑顔で応じた。
「大丈夫だ。二人がいる分、動くのはあくまでも蒼光としてじゃなく下忍のナルトとしての範囲になってしまうが、神金緋の力と称すればある程度の力も使えるしな」
「いつものあなたならこの心配は半分に減りますが、あの術を使った後です。それにまだ持続する為、わずかにチャクラを放出しているということも何かあったら命取りですよ」
「それは聞いてないぞ、蒼光。お前大丈夫なんだろうね」
 蒼闇の言葉に綱手までもが心配そうな顔をしてきて、蒼光は呆れた表情を見せた。
「大丈夫だと言ってるだろ? それに条件はお前も同じだ、蒼闇。おそらくお前の方にカカシが入ることになるだろう、俺はお前の方こそ心配だ」
 無茶はお前の専売特許だろ、と言われて蒼闇は苦笑を返す。
「私も大丈夫ですよ。中忍のシカマルもある程度策士家タイプだと知れ渡ってきましたからね。上手くやります」
「なら俺のことも信じろ、本当に限界を超えそうになったらお前を呼ぶから」
「……わかりました。絶対ですよ」
「ああ」
「話は付いたようだね。二人とも無理はするんじゃないよ」
「御意」
 綱手に念を押された二人は恭しく一礼する。
して、丁度その直後に外から気配が近づき、影分身のナルトとシカマル、そしてヤマトとカカシが入ってきた。
 二人はそのタイミングを計って影分身と入れ替わり、打ち合わせ通りに二手に分かれて行動する事となった。






 分かれている間も何度か情報を共有する為、絆話を駆使してナルトとシカマルは話をした。
 そして見えてきた敵の正体。
 神農は今回の黒幕であると言うこと、木の葉から術書を奪ったのも神農だということ。
そして、意外なところで繋がっていた大蛇丸との関係。
そのせいでサスケと出くわす羽目になったと聞いたとき、シカマルは思わず舌打ちをしてしまった。
サスケがいたのではナルトは本来の力を出して戦えない。
まだサスケには本当の自分達を知らせる時期ではないのだ。
「余力がない上に、下忍としてしか動けない。大丈夫か、ナル……」
 小さく呟いたシカマルはそれでも自分の置かれている状況を忘れてはいなかった。
シカマルが率いたのは四人一組(フォーマンセル)。
 あらかじめ付いていくと宣言していたカカシと、暗部であり、自分達の正体を知るサイ。そして、同期のシノ。
 この選出は作戦の特徴を考えてのことだったが、あっさりと上手くいった。
海にいた空母艦隊を計画通りに潰すことに成功したのだ。
そして残ったのは神農とナルトが乗り込んだアンコールバンティアンのみ。
 先程からシカマルはオリジナルの術を気付かれないように発動してアンコールバンティアンの内部の様子―――ナルトの戦いをずっと見ていた。
 本来のナルトであれば、神農の小ざかしい肉体活性の術などに負けるはずがなかった。
だが、下忍のナルトの振りをしながら戦わなければならないというハンデの上に、大きな術を使った為の疲労。
いくら彼でもここまでの負担があれば苦戦するのも仕方がない。
―――ナルの傷つく姿は見たくないんだがな…… ―――
 影分身と入れ替わって蒼闇としてナルトの元に行くことも考えた。
しかし、ナルトと同じく疲労が残っているシカマルにはリスクが大きい。
そして何より、ナルトはシカマル自身が無茶をして傷つくことを一番嫌うのだ。
 無茶をして倒れた後に見せるあの苦しげな表情はシカマルに一番堪えるものだった。
―――今回は黙って見守るしかないか―――
 諦めに似た思いを抱きながら表面は平気な振りをしてカカシやシノと会話するシカマル。
そんな彼の心中を全ての事情を知るサイだけが気遣わしげに見ていた。
『シカマル君…いいえ、蒼闇様。いいんですか』
 サイは思わずシカマルに暗部だけが使える心話で訊ねる。
その言葉にシカマルは内心苦笑して答えた。
『かまいません。後は蒼光に任せます。…サイ、あなたに気遣われるとは思いませんでしたよ』
 サイから気遣いの言葉が聞けるとは思ってなかったシカマルは素直に感想を述べる。
おおよそ人の感情というものを理解できないまま育ったサイを引き取り、ここまで感情を取り戻させたのはナルトとシカマルだ。
だからこそ彼の成長が嬉しいと感じる。
『気になるに決まってますよ。僕にとってあなた方は親も同然なんですから』
『年齢が変わらないあなたに親と呼ばれるのは不思議な感じがしますが…ありがとう』
 穏やかな声にシカマルから不安を感じなかったサイはそのまま引き下がる。
あの里最強の暗部総隊長であるナルトが負けるはずがないのだ。
 そうサイが思いなおしていると、不意にシカマルの表情が変化する。
それはわずかなもので他の者は気付かなかったが、サイははっきりと見た。
シカマルの顔に不快そうな感情が浮き上がったのを。
「?」
 サイは不思議に思ったが、それっきり何も感じ取れなかったため、詮索するのを諦めたのだが、理由は数刻もしないうちに判明した。
 神農を倒し、アンコールバンティアンに一人残りすべてを破壊しつくしたナルト。
力尽きてそのまま落ちていく彼を愛おしげに抱き締め、共に落ちていくのは―――
「アマル……」
 シカマルは、その名を音に乗せ、ぎりり、と唇を噛み締める。
まるで二人だけの世界を作っているかのような姿は本来恋人であるシカマルが担う役割のはずなのに……
 しかし、駆け寄ることは適わなかった。
第二陣として到着した同期達や、表向きナルトの師に当たる自来也が目の前にいるのだ。
今まで少しずつナルトの幸せのために築きあげてきたものを一瞬にして無にするような愚行はシカマルには出来なかった。
「ナルト……」
 サクラがホッとしながらも呆れたように何ごとかを言っている。
カカシや自来也も苦笑気味にそれを見守る。
そんな喧騒の中で、シカマルがナルトの名を呼んだその時、一瞬意識を失っていたナルトがアマルの腕の中で目を覚ます。
その表情がとても穏やかで、シカマルの前だけで見せる素の表情で。
皆が見惚れているのを止めることは出来なかった。
「…ヵ―――」
 ナルトが自ら紡いだ小さな音と共にハッと目を覚ます。
 周囲に皆が無事な姿でいるのを見て、下忍としての仮面を被りなおしたナルトは彼らしい太陽のような笑顔を浮かべた。








「…シカ、ねえシカ……こっち見て!」
 すべてが終り、後片付けを終えて本邸に帰ってきたナルトとシカマル。
しかし、シカマルの様子がおかしかった。
 ナルトを直視しようとしないのだ。
 シカマルの異変を敏感に感じ取ったナルトは不安になる心を押さえ、必死でシカマルに話しかける。
しかしシカマルはなんでもない、というだけで相変わらずナルトを直視してはくれなかった。
「……シカの馬鹿! こっち見ろって言ってるだろ!」
 いい加減変わらぬ態度のシカマルに焦れたナルトは苛立ちまがいにシカマルの肩を掴み振り向かせる。
 その瞬間、だんっ、という大きな衝撃と共にナルトはシカマルに両手を捕まれ壁に押し付けられながら唇を奪われた。
「シっ……ん、んんんっ! んむう――っ」
 いつもと違う感情むき出しの口付けにナルトは圧倒されながらも必死でもがく。
それをシカマルはことごとく封じ込めナルトが脱力して体をシカマルに預けるまで続けられた。
「はあっ……」
 くたりとなったナルトからようやく唇を離したシカマルは、今度は存在を確かめるように強く抱き締めて首に吸い付いた。
「あっ…や、ぁ……」
 シカマルの行為に感情について行けないナルトは弱々しく首を振る。
そしてその瞳には今にも零れ落ちそうな涙。
「っ……ナルっ……」
 ナルトを見てようやく我に返ったシカマルは行為をやめ、ただ落ち着かせるように抱き締める。
ナルトはそれに敏感に気付き、ようやくホッとした表情を見せた。
「シカ……一体どうしたの…俺悪いことした……?」
 真摯に見つめ聞いてくるナルトにシカマルは苦しげな表情で悪い、と謝る。
ナルトが謝罪を聞きたいのではないと目で訴えると観念したように口を開いた。
「…ナルが戦っているのをずっと術を使って見てた。お前が傷つくのを見ているしかないのが苦しかった。でもそれ以上に苦しかったのは、お前が表の仮面を被っているとはいえ、アマルに…あの女に笑いかけていたことだった……」
「シカ……」
「それだけじゃない! 落ちてくるお前を抱き締めたのは、愛しそうに包み込んだのは、俺じゃない! あいつだ! 何故俺じゃない! お前を守るのは俺のはずなのにっ」
 シカマルの血を吐くような叫びにナルトは大きく目を見開く。
まさかそれは、その感情は―――
「シカ…もしかして、嫉妬してくれた……?」
 確認するような問いかけにシカマルは苦しげな表情から赤みの指したものへと変化する。
それは、言葉よりも雄弁にナルトに答えを告げていた。
「シカ……っ」
 熱い思いが込み上げてきて言葉に詰まったナルトはただひたすらシカマルに抱きつく。
―――愛おしい、愛おしい、愛おしい、この存在が! ―――
ナルトにすべてを与えてくれるシカマル。
自分は何かを彼に返せているのか、と常々不安だった。
でも、こんな熱い告白を受けて返せてないとどうして言えようか。
 ナルトは自分のシカマルへの想いがシカマルの支えになっていることを確信し、歓喜した。
「シカ、俺は、シカのものだ。シカが俺だけを見てくれているように俺もシカだけを見てる。それはどんなことがあっても変わることのない不変のものだから……」
「ナルっ」
 シカマルはナルトの告白に返す言葉が見つからず、ただ彼の名を呼ぶ。
ナルトもそれに答えるようにシカマルの名を何度も何度も呼んだ。
「…シカ、大好き。愛してる……」
「ナル…俺も、愛してる」
「今度何かあった時は―――」
―――その時は立場も何も考えずに俺の所に来て―――
 それは、甘く狂おしい誘惑。
 一歩間違えばすべて崩壊してしまいそうな……
 しかし、シカマルはその言葉を蕩けるような微笑で受け入れた。
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