同い年の親子シリーズ

□突然の悪意
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『術書が盗まれた』
 ある日起こった些細な事件。
すぐに調査が開始されたが、蒼光も蒼闇もその術書の内容からしてあまり歓迎できたものでないにしろ、緊急事態というほどでないと思っていた。
―――まさか、それがこの大きな事件の発端となろうとは露ほどにも思わず。








「なんか…嫌な予感がするんだ」
 起き抜けにそうナルトに告げられたシカマルは不安そうな顔をするナルトを安心させるようにそっと抱き寄せた。
「嫌な予感、か。ナルの予感は外れたことがないからな。ナルが心配なら今日は気をつけるさ。で? その予感てーのは何処から来るんだ?」
 抱き寄せられて、少しホッとしたのか、ナルトはシカマルの背に手をまわし、体重を預けながら問い掛けに答える。
「ん。先日、術書が盗まれただろ、あの中身ってよくよく考えてみれば大蛇丸が好きそうな内容だよな」
「大蛇丸か…サスケの里抜け以来、息を潜めていたが…そろそろ動いてもおかしくない頃か」
 シカマルも大蛇丸という言葉に難しい顔をして考え込む。
あまり考えていなかったが、大蛇丸がらみの線もあり得ない話ではないのだ。
「わかった。そっち方面でちょっと調べてみる。ナル、なんかあったらすぐに俺に知らせろよ」
「うん、わかった」
 シカマルの言葉に微笑んで頷くナルト。
シカマルも笑みを見せたナルトに安心して微笑を浮かべた。
 そうしてナルトは下忍として、シカマルは中忍として任務に向かう何気ない日常が始まった。
 が、それは昼を過ぎた所でありえないほど急に崩れ去った。






『シカ!』
 短い叫びのような呼び方でナルトからの絆話が入る。
同時に察知した気配に中忍としてだらだらと書類整理をしていたシカマルは書類を投げ捨て周囲を気にすることなく表へと飛び出した。
『ナル! 何処にいる!?』
 物凄い勢いで上空から多勢のチャクラが近づいているのを感じたシカマルは緊迫した表情でナルトに呼びかける。
『シカ! 下忍任務が終わって丁度木の葉の入り口付近にいる! 気付いているか?』
『ああ、気付かいでか。ナルの予感はこれか。多勢の忍の気配がすごい勢いでやってくる。それも空から。里人の避難は時間がない、無理だ』
 シカマルの言葉にナルトは沈黙する。
里の人々は例外なく誰も感づいたふうもなく、普通の生活を送っている。
周囲でちらほら見かける上忍ですら気付いていないのだ。ここから態勢を整えるのはとてもではないが無理だろう。
『シカ、罪もない者達を犠牲にはしたくない。出来る限りの事はしたい』
『罪もない? あいつらがナルに何をした? あいつらは十分罪深いさ!』
『シカ!』
 罪がないというナルトに、シカマルは思わず本音が口をついて出る。
それを困ったように嗜めるナルトに切ない思いを湧き上がらせながら、シカマルはしぶしぶ訂正した。
『わかってる、ナルが優しすぎるのは。まあ、物心ついたばかりの赤ん坊まで罪だとは言わないさ。その命の為や、俺らの味方をしてくれる奴らの為に動くのであれば異論はない。ナルの願いだしな』
『ありがと、シカ』
 シカマルの言葉にナルトは柔らかな声で礼を言う。
 だがすぐに意識を切り替え、目の前の問題に取り掛かった。
『奴らが来るのは後数分というところだ。人を動かせないのなら結界を張る』
『ああ、それしかねーだろ。ナル、二人で里全体に結界と幻術をかけるぞ。こんな突然の襲撃だ、カブトのように内通者もしくはスパイがいるとも限らないから同時に影分身で表の俺達には表の俺達らしい行動をしてもらおう。かなりきついが大丈夫か?』
『もちろん! 誰にそれを言ってる?』
『そうでした。貴方は里最強の忍、暗部総隊長蒼光様でしたね。失言でした』
 笑って蒼闇の口調で茶化すシカマルにナルトも自然笑みが零れる。
それは表のナルトでは絶対に浮かべる事のない綺麗な笑みで。
偶然周囲を通りかかった者達が思わず立ち止まって見惚れるほどだった。
『俺は丁度里の入り口だ。ここから要となって結界術を広げる。シカは対称の場所に行って結界術の補助を頼む。幻術はシカのほうが得意だよな』
『ああ、対称の位置から俺が要になって幻術を掛ける。ナルは幻術の補助を頼む』
『わかった』
 結界術と幻術の同時発動というシカマルの意図をナルトは正確に捉えていた。
 空から来る以上攻撃は上から来る。
それを防ぐ為に結界を張るが、それだけでは敵の正体を暴くことができない。
だから幻術で木の葉が襲撃の被害をあっていると見せかけ、敵を油断させて割り出すつもりなのだ。
『! 来た! 綱手のばあちゃんへの報告は後だな。やるぞ蒼闇!』
『御意』
 話の間に所定の位置に来ていたシカマルは蒼闇に変化し、術を発動する為の印を結び始める。
ナルトも周りに気付かれないように蒼光に変化し、ほぼ同時に印を結び始めていた。
「結界術・陰陽の陣!」
「幻影術・光影の陣!」
 何の示し合わせもないのに、蒼光と蒼闇の術は同時に発動され、一気に里を覆っていく。
大半の者達が術が展開されたのに気付かなかったが、五代目火影である綱手、暗部の幹部数名は蒼光と蒼闇が発動させた事に気付き、異変が起こることを察知した。
「蒼光? 蒼闇? これは…何事だ!」
 火影の執務室にいた綱手は術に気付き、窓に駆け寄る。
 それが、彼女が一番信頼をしている二人のものだと気付いて口を開いたその刹那―――
 ドーン! ガラガラガラ…
 物凄い衝撃音と共に里が揺れた。
 突如空から現れた謎の忍達が縦横無尽に飛び回り木の葉の里に無差別に攻撃を仕掛けてくる。
 建物は壊れ、人々は傷つき、忍達は抵抗らしき抵抗が出来ぬまま命を奪われていく。
地獄絵図のような悲惨な光景が目の前に展開されていた。
 …少なくとも、敵の忍達にはそう見えていた。
「これは…一体どういうことだ?」
 把握が出来ないままに進む事態の大きさに混乱した綱手が呟く。
そこに数名の暗部と、カカシ、ヤマトが勢いよく駆け込んできた。
「綱手様! これは一体?」
「蒼光様と蒼闇様は何処にいらっしゃるのですか!?」
 次々と投げかけられる言葉に、綱手はゆらりと振り向き机をドン! と叩いた。
「少しお黙り! 一度に言われたら答えられるわけないだろうが!」
 一喝されて静まり返った者達の顔を見て溜息を吐いた綱手は疲れた声で話し始める。
「空から現れた謎の忍集団。昔聞いたことがある。かつて「空忍」と呼ばれる忍の集団があった。空を飛ぶ技術力に秀でたその集団は「空の国」と名乗り、忍五大国に対抗して木の葉に滅ぼされたと言う」
「では、この襲撃は木の葉への復讐の為ということですか」
「だろうね。とっくに滅びてないと思っていたが、まだ生き残りがいたとは……」
 綱手は再び吐息を吐き、表の惨劇を眺める。
襲撃されたというのに落ち着いていられるのは、今目の前に起こっているもう一つの不思議な現象のためだ。
「で、今のこの現象はやはり蒼光様と蒼闇様が?」
 ヤマトが訊ねると綱手は曖昧な表情で頷く。
「おそらくそうだろう。あいつらのことだ、いち早く襲撃を察知し、術を展開したのだろうが…私の所に報告が来ていないからな。まあ、この大規模な術を見ればそんな余裕などないに等しいのはわかるから文句は言えないが」
 綱手の視線につられて皆が外の光景を見る。
そこは全く不思議な光景が広がっていた。
 空にガラスが一枚置いてあるような薄い区切りがあり、その上にもう一つの木の葉の里が透けて見えるのだ。
 そのもう一つの里が襲撃を受けているのを自分達は見ている。
この里には里人達もそっくりそのままいて、上に透けて見えるもう一つの里にもう一人の自分がいて唖然としている者もいた。
「まるで鏡…いや、光と影? そんな感じですね」
「これを蒼光様と蒼闇様がお二人でやっているのであればなんとすごい力をお持ちなのか」
 カカシやヤマト、その場にいた暗部達も口々に二人の圧倒的なすごさを畏敬の念を込めて褒め称える。
それを、蒼光と蒼闇の正体を知る綱手は複雑な顔をして聞いていた。
 蒼光と蒼闇にこの里の奴らはどんな仕打ちをしてきたのかそれを知った時、どんな反応を取るのか。
今のように尊敬の言葉を並べる事ができるのか。
そんな不安と苛立ちがよぎったからだ。
「とにかく蒼光様と蒼闇様を探した方がいいのでは?」
「我々にもできることがあれば指示を仰ぎたいのですが」
 暗部達から火影よりも二人の指示を聞くという本来ならばあり得ない発言を耳にしたが、綱手は全く気にすることなく肯定する。
「そうだね、お前達二人を探してきて、状況を確認してくれ」
「その必要はない」
「ここにおりますよ」
 皆が一斉に飛び出そうとしたその時、静かだが周囲に響く声が聞こえてきて一斉に振り返る。
「蒼光様、蒼闇様!」
 そこには多少疲労を見せる蒼光と蒼闇の姿。
 綱手は近づいてくる二人に駆け寄り思いっきり抱き締めた。
「! 綱手!」
「綱手様!」
 蒼光と蒼闇は綱手の行動に受け入れながらも驚きの声を返す。
そんな二人を綱手は抱き締める力を強くした後、二人の肩を抱いたまま体を離した。
「お前達、無理をするなといつも言ってるだろ!」
 飛んできた叱責に二人は顔を見合わせて微笑を浮かべる。
二人が見せた疲労に心配してのことだとわかったからだ。
「心配をおかけしましたが大丈夫ですよ」
「無理はしていない。最善のことをやったまでだ」
「取り敢えず報告が先です。どうやらこの忍について綱手様もご存知のようですが」
「! ああ、頼む」
 蒼光と蒼闇は交互に自分達の行動を報告する。
敵の察知した時点から術の展開に至るまで。
綱手もその場にいた者達も話を聞き、その判断力に改めて尊敬の念を抱いた。
「……というわけで、さすがに報告の余裕はありませんでしたので今になってしまったのです」
「幻術と結界が混じって定着するまでは動けないからな。今はもう定着しているから動いても問題ないが」
「じゃあ、やはりこの術はお前達の仕業なんだね」
「ええ、蒼光の結界術と私の幻影術を合わせると守護対象の影が表に現れ、本物は影と入れ替わるという仕組みになっているのです。今回は里に悪意を持たない存在のみを守護対象に選択する必要があった為、時間が掛かりました。ことが解決するまではこれを維持します」
「里の者達にも火影の名で説明をしておいてくれ。俺達は奴らへの反撃態勢に移る」
 蒼光の頼みに綱手は力強く頷く。
「わかった。ところで敵の正体だが、お前達知っているのか」
「空の国の話ですか? それならば聞いたことがありましたが、まだ存在していたのですね」
 博識な蒼闇が妙に感心した風に告げると、それを余裕と取った周りの者達はふっと緊張を解く。
「さすが蒼闇様だ。ではもう対策も……?」
「そろそろ敵もチャクラ切れで引き上げるでしょう。あの使い方は消費が早いはずですから。それを利用させていただきます」
 蒼闇がそう答えると、蒼光が補足する。
「表の展開を見てたんだが、丁度うずまきナルトと奈良シカマルがいいポジションにいるみたいだ。俺達が動きやすくする為にも表立ってはあいつらとその同期達に今回の件を手伝ってもらうつもりだ」
「蒼光様! ナルトとシカマルにって…いくら力を秘めているって言っても、あいつ等には荷が重いのでは?」
 上忍師だったカカシが心配そうに発言する。
それを止めた蒼光はこともなげに言った。
「だったらお前もついていけばいい、カカシ上忍。それで問題ないだろう」
「! ええ、そうさせてもらえるなら」
 いつもとは違う有無を言わさぬ雰囲気に、皆が戸惑いの表情を浮かべる。
それを察した蒼光と蒼闇は不敵に笑って告げた。
「俺達は怒っているんだ。復讐なんてつまらない感情で木の葉を襲った事に対してな」
「私と蒼光の大切にしているものを壊そうとしたこと、そして蒼光の手を煩わせたこと。この二点に対してだけでも罪は重いですよ。たっぷりと後悔していただきましょう」
 そう言って笑う二人の冷酷な表情に皆ぞっとして青褪める。
「こりゃ、敵さん全滅決定だね」
「ええ、お二人を敵に回したんです。もう決まったようなものですよ」
 穏やかな蒼闇と優しい蒼光の逆鱗に触れたのだと悟った皆は、これから徹底的な報復を受けるだろう空忍達に思わず少しだけ哀れみを感じたのだった。



 そして数日もたたぬうちにそれは現実のものとなったのである―――
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