同い年の親子シリーズ

□五歳の息子と五歳の両親
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「…一体どういうことだ、ダンゾウ!」
「蒼光様、何をそのようにお怒りになるのですかな」
 鋭い殺気に冷汗を掻きながら、ダンゾウは銀色の髪の暗部―――蒼光に訊ねる。
何故怒られるのかわからないといった風のダンゾウに黒髪の暗部―――蒼闇は冷たい視線を浴びせた。
「蒼光様のお怒りの原因がわからないとは愚かですね、ダンゾウ。あなたが入隊させたいと言っていたのはその子でしょう。五歳になるかならないかの子を暗部にするなんて、あなたは殺人人形を作るつもりですか!」
 蒼闇の言葉にダンゾウは眉を顰めて大げさに首を振った。
「暗部になり里の為に手を血で染めることは名誉なことではありませんか! お二方の考えこそ私には理解できませんな」
「名誉? 名誉だと!? ……っだから嫌だったんだ!お前にサイを預けるのは!」
 吐き捨てるように言い放った蒼光は、忌々しげにダンゾウを睨む。
その殺気は数倍に膨れ上がり、ダンゾウだけでなくその場にいる蒼闇以外の全ての者が息を詰まらせた。
「…蒼光! 気持ちはわかりますが、殺気を収めて下さい!あの子が、サイが息を詰まらせてしまいます!」
 蒼闇の言葉で我に返った蒼光の目に青褪めているサイの姿が飛び込み、慌てて殺気を収める。
心配そうに様子を見ていると、サイは落ち着いたのか一つ息を吐き無表情に戻った。
 何の感情も移さない能面のような姿に悲しみを覚えた蒼光だったが、その表情の奥に僅かだが歓喜の光が見え隠れしていることに気付き、思わず優しい笑みを浮かべた。
 サイはそれを見て何かを感じたのか、ダンゾウの後ろから飛び出し、蒼光に恐る恐る抱きついてきた。
「……え?」
「サイ?」
「…母、上……」
 小さな声で確認するかのような呼びかけに蒼光はたまらず抱き締める。
「サイ、覚えていてくれたのか…悪かったな、遅くなって」
 あやすように背中を叩いてやると、やっと確信が持てたのか口元を僅かに緩ませ、今度は力いっぱい抱きついてくる。
 サイからまだ完全に感情が失われていないことがわかって安堵した蒼光は、男なのに母上と呼ばれるのは釈然としないけどな…≠ニ呟きながらもサイを受け入れていた。
 蒼光がサイを抱きしめながら蒼闇に視線を向けると、蒼闇は言いたいことを悟り、唖然としているダンゾウに追い討ちを掛けるように告げた。
「ダンゾウ、木の葉に殺人人形はいらないのですよ。火影様のご意思を履き違えてもらっては困りますね。木の葉は火の意思を受け継ぎし里。仲間を想い、里を誇りとし、自らの意志で大切なものを守る。それが我等の原動力。感情を持たぬ者にその資格はないのです」
「サイの暗部入りは認められない。少なくとも感情が戻るまではな。それと、本日以降、サイは俺達がひきとる。今度は否とは言わせない。…三代目もそれでよろしいか」
 蒼光と蒼闇の意思はゆるぎなく、三代目も満足げに了承する。
「うむ。わしに異論はない。ダンゾウ、今日よりサイの身元引受人は蒼光と蒼闇じゃ。よいな」
「……御意」
 ダンゾウは一瞬苦々しい顔をしたが、里のトップ三人に言われては反論も出来ず、一礼して退出していった。
その会話を聞いていたサイは期待に満ちた目で蒼光と蒼闇を見、口を開く。
「父上…? 母上…? これからはずっと一緒、ですか?」
 その言葉にサイを見た蒼光と蒼闇は慈愛に満ちた笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、ずっと待たせてしまいましたが、これからは一緒ですよ。もう我慢しなくてもいいですから、思ったことはちゃんと口にして下さいね」
「蒼闇の言うとおりだ。俺も人のことは言えないが忍だからといって無闇に感情を抑える必要はないからな。少しずつ覚えていこうな」
「……っ、はい」
 サイは胸の奥からじわじわと温かい感覚があふれ出し、目から水が零れ落ちた。
それが涙で、嬉しくて泣いているのだと気付いた時、涙が止まらなくなった。
 そんなサイを二人は温かく見守り、泣きつかれて蒼光の腕の中で寝てしまうまでずっとあやし続けた。
「…寝てしまいましたね」
 安心したように眠るサイを見て、蒼闇はくすりと笑う。
蒼光はサイを抱き上げながら穏やかに微笑んだ。
「まだ五歳だ、ずっと精神に負担が掛かっていたんだろう。三代目、俺達はサイを連れてこのまま帰ります。任務はもうありませんね?」
「ああ、大丈夫じゃ。しかしのう、サイのことを我が子のように思うのはかまわんが、おぬしらとて五歳の子どもだということを忘れておらんか?」
 サイを暗部にするのが早いと言うのであれば、二人も早いということになる。
本来ならばサイのように庇護されるべき存在なのに庇護する側に廻ろうとする蒼光と蒼闇に三代目は複雑な表情を浮かべた。
「いいんだ、俺達は。サイは普通の五歳児よりは優れているが、まだ子どもらしい部分がある。だが、俺達はそれすら逸脱しているからな」
「大人から見れば子どもらしい部分がなくて可愛げがないかもしれませんね。でも、私達はもう子どもに戻れませんし、戻ろうとも思っていませんから、お気になさらず」
 蒼光と蒼闇の慰めに三代目は苦笑を浮かべる。
子どもらしく育つことが出来なかったのは、彼らに冷たい里のせいであることは疑いなく。
それでもいいと享受している優しさが嬉しくもあり、悲しくもあった。
「では、三代目。俺達はこれにて御前を失礼する」
「何かありましたら連絡を下さい。すぐに参りますから」
「うむ、わかった」
 三代目の頷きに蒼光と蒼闇はサイを連れて瞬身で退出する。
五歳とは思えぬその鮮やかな手並みに三代目は再び吐息を吐いた。
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