深淵シリーズ短編集

□絆話
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『ナル、ちょっと来てくれ』
 珍しく何もない穏やかな休日。
 応接間のソファーでゆったりと寛ぎながら本を読んでいたナルトは、不意にシカマルに呼ばれて顔を上げた。
「シカ」
 シカマルの声は聞こえたのにこの部屋にはいない。
 確か、研究室へ行ってくるといって数十分前に降りていったままだ。
地下室にある研究室は防音の結界が張ってあるため声がこの部屋まで聞こえてくるなどありえないはずなのに。
 不思議そうに首を傾げるナルトに再びシカマルの声が聞こえる。
『ナル、聞こえてるか? 聞こえたら悪いが研究室まで来てくれるか』
 シカマルの声が耳ではなく脳に直接響いているのだと気付いたナルトは、何か試しているのかもしれないと察して言われるまま地下の研究室に降りていった。
「シカ」
 研究室の中に入るとシカマルが何か印を用紙に書き込んでいるところだった。
 ナルトが声をかけるとシカマルはすぐに顔を上げて笑みを浮かべる。
「ナルが来てくれたっつーことは成功だな。俺の声、聞こえたか?」
「うん。脳に響いてくる感じで不思議だったけど……何か術でも作ったの」
 シカマルの成功したという言葉に新しい術を開発したのだと確信したナルトは、少し興味深そうにシカマルの手元を覗き込んだ。
 シカマルはナルトに先程まで書きこんでいた紙を手渡すと、説明を始めた。
「ああ、心話の術を応用した通信術だ。緊急時の通信手段が欲しくてな。新しく作ってみた」
 シカマルの話を聞きながら紙に書かれた印の手順や仕組み、その効果を確認したナルトは、ほう、と溜息を吐いた。
「すごい、シカ。制限範囲が広い上に相手を意図的に限定できるなんて。任務にも便利だよね」
 表情はほとんど変わらないが明らかに楽しそうな様子の声音を聞いてシカマルも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ナルに気に入ってもらえてよかった。従来の心話の術は相手との距離が遠ければ遠いほど第三者に傍受されやすかったからな。まずはそこを改良したかった。広範囲でも傍受されにくいようにするために特定の次元空間を開いて声だけ飛ばす。一種の時空間忍術に近いな」
 ナルトは頷きながら流れるような手つきで印を結ぶ。
 空気の僅かな変化でナルトのチャクラが開放されたのを感じたシカマルの脳に、ほどなくナルトの声が直接響いてきた。

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