深淵シリーズ短編集

□真夜中の団欒
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里全体が静けさに支配される深夜。
 守焉―――シカマルは一人夜道を気だるげに歩いていた。
「あー…だるい……」
 淡く輝く月をぼんやり眺めながら歩くその姿は、気だるげな様子も相俟ってはっとするほど妖艶で。
他者がいればそのまま見惚れることは間違いない。
 この麗しい青年が実は五歳になるかならないかの子どもだと誰が思うだろう。
「ったく……どいつもこいつも役にたたねーから困る」
 シカマルは時折ぶつぶつ言いながら歩みを進める。
 だるいといいつつも足を止めないのは、一秒でも早く家に帰りたいから。
このような深夜に本来の姿ではないにしろ、幼い子どもが何故外を歩いているのか。
 それにはある理由があった。
彼のもう一つの裏の顔、守焉という存在がその理由の根源。
守焉は任務戦略解析部隊総轄長という木の葉の里の中枢を握る地位を持っているのだ。
 四歳で任務戦略解析部隊に入隊し半年と経たないうちに総轄長に就任してからというもの、シカマルの日常は激変した。
 総轄長に就任する前もそれなりに忙しかったが、就任してからはその比ではないほどの仕事に忙殺され、朝から晩まで総轄長執務室から身動きが取れなくて。
 今の時間で帰れるのは早いほうで、下手すれば夜明けになったり帰れなかったりすることもざらだった。
 そんな彼を苛立たせるのは解部の部下達。
 シカマルはIQ400以上という異端に近い頭脳を有している。
そのため、書類の処理能力、とっさの判断力、統率力、どれをとっても他の追随を許さず、普通の人間はついていけない。
 だがシカマルは絶対に妥協をしない。
 判断基準を自分についていけるレベルと定めているため、彼にとって使える者は解部に数えるほどしか存在しないのだ。
使える者が少ない。それはイコールシカマルの意図を正確に読み動ける者が少ないと言うことで。
 わかる者なら一言ですむ指示を一から細かく説明しなければ次へ進めないことが、シカマルにとってかなりのストレスになっていた。
 それでもぎりぎりの所で踏みとどまっているのは、はっきりとした目的があるから。
 里を守るに九尾の器として犠牲になり、守っているはずの里から厳しい迫害を受けている御子、うずまきナルト。
 初めてシカマルが守りたい、そう思った大切な存在。
彼を守るという強い想いがあるからこそ、シカマルは現在の状況を苛立ちながらも受け入れていた。
 それに、シカマルには支えてくれる者達がいた。
 一度は信じられないと拒絶したにもかかわらず大きな愛情で己を見守ってくれた者達。
 そう、父であるシカクと母であるヨシノ。
 家に帰れば彼らは黙ってシカマルを愛情で包み込んでくれる。
照れ臭くて感謝の言葉を言えたことがないけれど、シカマルは彼らが傍にいてくれることを心の中では感謝していた。

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