深淵シリーズ短編集

□悪意の傷痕
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 暗殺戦術特殊部隊待機所。
 いつもは静かなこの場所が今日は珍しくざわついていた。
 原因はある人物の訪問。
その人がこの待機所に来ること自体滅多になく、目の当たりにした者達が驚きと歓喜の声を上げているからだった。
 その人の名前は任務戦略解析部隊総轄長・守焉。
木の葉の一、二を争うほどの実力を持ち、里の頭脳といっても過言でもない、いわば忍の憧れの存在だった。
 当の本人は周りの反応など意に介さず、目的の部屋へと向かっていく。
その表情は多少焦りが入っているのだが、彼を見て浮かれる者達には気付かれることはなかった。
「刹華はいるか?」
 暗部の班長クラスの者達が集まる待機室までやってきた守焉は、その場にいた者達にいきなり問い掛ける。
 一瞬ざわりとしたものの、焦ることなくその場にいた者の一人が守焉の問いに答えた。
「刹華様は先ほど火影様の執務室より戻られて総隊長室にいらっしゃいます」
「わかった、すまないな」
「いえ」
 所在を確認した守焉はすぐにその奥にある総隊長室へと歩みを進める。
そして、ノックも無しに扉をいきなり開けて『刹華!』と大声で呼んだ。
「! 守焉? 一体どうしたのです、ここまで足を運ばれるなど、珍しい」
「お前、さっき三代目に任務もらっただろ、SSSの奴だ」
「ええ、いただきましたが、それがなにか?」
「それは俺の任務だ。うちの新人が間違って三代目に渡した。返してくれ」
 珍しく焦り顔で手を差し出す守焉に、刹華は首を傾げながら、でも、と答える。
「でも、守焉、貴方も忙しいでしょう。今日は特に急ぎもないし、任務も少ないので私がしますよ」
 守焉の忙しさを十分承知している刹華は、親切心からそう申し出る。
しかし、守焉は難しい顔をして首を横に振り、更に手を差し出した。

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