深淵シリーズ短編集
□初詣
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「はあ? 冗談じゃねーよ! んな格好できるか!」
盛大に叫んだシカマルは肩で息をしながら母・ヨシノと幼馴染のいのを睨みつける。
その横でチョウジやキバ、シノ、サスケといった同期の男性陣が珍しいシカマルの様子に、楽しそうに笑っていた。
叫ばれたヨシノは笑顔を崩さず、シカマルを見据えその叫びをあっさりといなす。
「何言ってるの、殆ど家にいないんだから正月くらい母さんのお願いを聞いてちょうだい。ナルトちゃんはすぐに了承してくれたわよ!」
「っ、ナル〜」
ナルトの名前を出されて脱力するシカマル。
ナルトのことだ、困ったような顔をしながらも初めて出来た家族と友人の絆が嬉しくて了承したのだろう。
感情がずいぶんと出るようになった今ではその一つ一つの言動が母性愛を刺激するらしく、女性陣にとても可愛がられている。
その愛情をナルトも真摯に受け止め、幸せそうに笑っているのだから、こういうお願いも拒否するはずがない。
「シカマル! ほら、たまには親孝行もいいじゃない! 皆で過ごせるのだって今日一日だけで、明日からまた守焉様として行事の参加とか任務もあるんでしょ?」
私達も同じだけど、とお願いモードで訴えるいの。
確かにこの正月休みを一日もぎ取るのも大変な苦労だった。
なんせ、ここに暗部、解部の隊長クラスが半数以上揃っているのだ。
残りの連中が快く送り出してくれたからとはいえ、このようなことは滅多にない。
だがそれでも、この話と今の状況はシカマルにとって別問題だった。
「だからって何でこれなんだ!? 紋付袴とかならまだわかる! だがこれは殆ど女物じゃねーか!」
そう、目の前にあるのはシンプルだが美しい柄の入った着物と豪華な花飾り。
どう見たって男の着るような代物ではない。
「大丈夫よ〜あんたが着ても女物なんて気にならないくらいステキな仕上がりになるから!」
「そうそう! ほら、ナルトだって待ってるわよ!」
二人のその自信はどっからくるのか…
会話するのも疲れるほどのノリにシカマルは盛大な溜息を吐いた。
「んも〜じれったいわね! じゃあ、ナルトのお願いなら聞いてくれるわけ?」
頑として首を縦に振らないシカマルに、業を煮やしたいのは切り札とばかりにナルトの名前を出す。
思わずピクリと顔を引き攣らせたシカマルに、いのはすかさず隣の部屋へ声をかけた。